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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第134話 弓月桜
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 一瞬、風が哭いた。

 冬の属性に支配された風に吹き付けられた彼女の黒髪、緋色の袴、そして白き衣の袂が不穏に揺れ、同時に清楚な彼女に相応しい微かな……。しかし、季節にそぐわない涼やかな音色が俺の耳に届く。
 普段は自身の発して居る雰囲気に作用され、実際の身長よりも小さく感じている彼女。しかし、今はすっと……ごく自然に立った姿からは、柔らかいながらも凛とした雰囲気を発生させている。顎から首筋。そして白衣(びゃくえ)の襟元から覗く肌の色は、夜目にも鮮やかな白。
 繊細な、しかし、よく通った鼻筋。目元に影を落とすように長く、濃密なまつ毛。何時かは触れてみたいと感じるくちびるは少し薄く、やや受け口気味。
 普段と違う……戦闘の際には邪魔になる黒髪を絵元結(えもとゆい)で纏め、妙に似合っている巫女服。白の足袋によく映える赤い鼻緒の草履。
 そして、身体の各所に付けられた退魔の鈴が、彼女が動く度。風が彼女を撫でる度に微かな音色を発し、その分だけ余計に邪気を祓い続けていた。

 成るほど。何故か訳知り顔で小さく首肯いて見せる俺。
 今、俺の視線を独占している彼女をそのまま北高校に連れて帰れば、明日からは女生徒の人気ランキングが大幅に書き換えられる事だけは間違いない。そう考えながら。
 何故ならば、少なくとも俺の目には、冬の夜に佇む彼女の方が朝比奈さんよりも綺麗に見えて居ましたから。
 夜。ぽつり、ぽつりと続く人工の光と、月明かりのみに支配された世界。
 まるで何モノかがすすり泣くかのような音色を伝えて来る冷たい風。
 そして、夜目にも鮮やかな白衣と緋袴(ひばかま)のコントラスト。

 彼女……弓月桜と言う少女が纏って居る雰囲気と合わせて、今の時間と場所は彼女が支配する世界と言う事なのでしょう。

 ただ、何処からどう見てもリアル巫女さん、……なのが如何にも涼宮ハルヒ率いるSOS団の一員だと言う証のような気もして、少しアレなのですが。
 ――実際、彼女の家系から考えるとリアルも何も、巫女姿の方が本来の彼女なのでしょうが、北高に通う連中はそのような事を知る訳はない。故に、巫女さんのコスプレをした弓月桜と言う名前の少女、と言う認識で彼女を見るでしょうから。

「寒いか?」

 振り返り、少し素っ気ない口調でそう問い掛ける俺。
 その時、足元で踏みしめられた砂利が微かな悲鳴を上げ、この静かな、そして不穏な闇に沈む中央公園に響いた。

 ――そう、不穏な暗闇。

 乾燥(かわ)いた大気の層を貫き降りそそぐふたりの女神の祝福(光輝)と、彼女らを取り巻くように瞬く星々の煌めきも、今宵、この地を支配する深き闇を振り払う事が出来はしない。
 当然、ある一定の間隔で建てられた街灯が闇を切り取り、ほんの百メートルほど向こうを時
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