6部分:第六章
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す」
ここで彼は意外な返事をした。
「断った!?またどうして」
「実はですね」
光正は医者が驚く顔を見て答えた。
「その大学にはあいつも受けるってことがわかりまして」
「あいつ!?誰なんだねそれは」
「村山ですよ」
彼は笑って述べてきた。
「あいつが受けるってわかって。それで辞めたんですよ」
「何でまたそうしたんだい。勿体無い」
「勿体無くはないです」
しかし彼はまた言う。
「あいつと投げ合っていたんですよ」
「それはそうだけれど」
「だからですよ」
しかし彼の言葉は変わらない。表情も毅然としていた。
「あいつとまた投げ合いたいですから」
「甲子園の時みたいにか」
「今度は負けませんよ」
彼は明るい声で述べた。
「絶対にね。あいつから手紙も来ましたし」
「そうなのか」
これまた喜ばしいことであった。光正の言葉に医者も笑顔になる。
「それじゃあ大学でも投げて」
「今度こそ勝ちますよ。そう手紙を返しました」
「それはいいことだ」
医者としてあるまじきではないかと思える程患者に感情移入していた。しかしそれを止めることはもうできなかった。医者も心からそのことを喜んで楽しみにしていたからだ。
「それじゃあ絶対に」
「はい、腕を治して下さい」
光正は満面の笑顔で医者に頼み込んだ。
「またあの時みたいに投げられるように」
「あの時どころじゃないぞ」
医者はその光正に言葉を返す。
「もっとだ、もっと」
「もっとですか」
「そうだ。好きなだけ投げられるようになる」
喜びのまま光正に告げる。
「これからも。ずっとな」
「じゃあ投げます」
光正もそれに応えて言う。
「これからもずっと」
彼は今これからのことに期待を胸に膨らまさせていた。大学に入って好きなだけ投げて今度こそ村山に勝つ。それで胸が一杯だった。もう腕のダメージのことはどうでもよかった。ただこれからのことに胸を奮わせるだけであった。そうして医者と笑顔で誓い合うのだった。これからの希望に対して。
投げ合い 完
2007・12・20
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