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投げ合い
5部分:第五章
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いき得点圏にランナーが進んだ。彼はそれを見て満足そうに頷くのだった。
「これでいい」
「やれるか?」
「やります」
 そう監督に答える。
「それじゃあ」
 ここまで言ってバッターボックスに入った。右のバッターボックスに立つ。
 光正はその村山を見据えている。気迫も闘志も全く衰えてはいない。ピンチだというのに抑える自信があった。それも絶対的なまでに。
「俺のボール」
 彼はセットポジションの態勢で呟く。バッターとしての村山も恐れてはいない。
「打てるものなら打ってみろ。打たせてたまるか!」
 投げた。渾身の力で。絶対に打たれない確信があった。ところが。
 投げた瞬間だった。右腕を鈍い痛みが襲った。それがボールを殺してしまった。
「!?しまった!」 
 すっぽ抜けた。渾身のボールの筈がだ。それが何を意味するのか彼が最もよくわかっていた。
 そして村山にも。その目が光る。
「ここで出たな」
 光正のボールが衰えるのがわかっていた。それが今だったのだ。
「このボールなら」
 冷静にボールを捉えていた。バットを振る。ボールは白い金属バットに一瞬だけひしゃげてそれから飛んだ。広い甲子園に高々と舞った。
「終わった・・・・・・」
「終わった・・・・・・」
 光正と村山はそれぞれ呟いた。ボールはスタンドにこそ入らなかったが左中間を深々と破った。二塁ランナーが三塁を回った。
 甲子園に歓声が木霊する。そのランナーがホームを踏んだのだ。これで決着がついた。延長十七回にしてようやく勝負がついたのである。
 村山は二塁ベースにいた。そこからマウンドを見ていた。そこには崩れ落ちた光正がうずくまっていた。もう彼は一歩も動けなかった。

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