第172話 襄陽城攻め5
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正宗の進む方向から彼のことを呼ぶ声が聞こえた。しばらくすると人影が確認でき、その人物が蔡平であるとわかった。蔡平は正宗と距離を置き、片膝を着き拱手した。正宗は突然現れた蔡平に驚いた。彼女が現れた方向から考えて、一度正宗の天幕に出向いたのかもしれない。蔡平の表情は暗がりあまり分からなかったが篝火の灯りで照らされる彼女の顔は不安と期待が無い混ぜになっていた。
「久しいな」
正宗は歩みを一旦止め蔡平に温和な表情で声をかけると、ゆっくりと彼女に近づいた。
「私の元に現れたということは気持ちは決まったのだな」
正宗は蔡平と数歩ほどの距離で止まり蔡平に声をかけた。
「清河王、私は」
蔡平は顔を伏せ言葉を詰まらせた。
「何だ?」
正宗は蔡平を凝視し優しく声をかけると笑みを浮かべた。
「私のような者が清河王にお仕えしてもよろしいのでしょうか?」
蔡平は小さい声で正宗に言うと唇を固く閉じた。
「私はお前を見込んで朗官に引き立てた。今でもその判断に間違いはないと私は思っている」
正宗は強い意志を感じさせる声で蔡平に語りかけた。彼は蔡平を仕官させたことを少しも悔いていない。それは蔡平にも伝わった。
「私は学もありません。それに」
「自らの出自を恥じているか」
蔡平は正宗の姿を確認すると彼に対して片膝を付き拱手し顔を俯かせ沈黙したままだった。正宗はしばし蔡平の姿を凝視した後、彼は空に視線を向けると徐に口を開いた。
「蔡平、見て見よ。今宵は良い月が見える」
正宗の視線は月を捉えていた。
「蔡平、見て見よ」
正宗はもう一度蔡平に声をかけた。すると蔡平はゆっくりと空を見上げた。空には三日月が綺麗な光を放っていた。
「三日月でも風情があるとは思わないか? 月はいつ見ても美しい。私はこうして月を見るのが好きだ。月を見ているとくよくよと悩むが馬鹿らしく思い、明日から頑張ろうと思える」
正宗は語り終わると一拍置き口を開いた。
「私はお前の境遇を理解はできないだろう。理解できるとなどと軽口を私は口にできない。だが、お前を私の家臣としたいと思ったことは私の本心だ。それに嘘偽りはない」
正宗は視線を蔡平に落とした。彼は蔡平と目が合うと蔡平に語り出す。蔡平は正宗の言葉を黙って聞いていた。
「王に生まれる者。士に生まれる者。農民に生まれる者。人は天意に従いこの世に生を受ける。全てには理由がある」
蔡平は沈黙し哀しい表情をした。
「蔡平、お前は苦しんだのかもしれん。それで私とお前は出会うことが出来たのだ。お前は母を養父母を誇るのだ。一時、お前は復讐に心を支配されたが、心根は腐らず真っ直ぐであった。それはお前を育てた者達がお前
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