巻ノ二十七 美味な蒲萄その十二
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その後でだ、幸村は兄である信之に場を去る時に言われた。
「暇はあるか」
「これからですか」
「うむ、あるか」
微笑んでだ、弟に問うてきていた。
「これからな」
「はい、これといってすることはありませぬ」
「そうか、ではこれから歩くか」
「屋敷の庭を」
城内にある真田家の屋敷のだ、かつては幸村もそこに住んでいた。
「そこを、ですな」
「そうするか、久しぶりに」
「はい、ただ」
「その者達もじゃな」
信之は今も彼の後ろにいる十人を見て言った。
「共にじゃな」
「そうして宜しいでしょうか」
「わしも言おうと思っておった」
「この者達をですか」
「連れて来る様にとな」
「そう仰るつもりでしたか」
「そうであった、ではな」
信之はあらためて幸村に告げた。
「その者達も入れてな」
「話をしますか」
「これよりな」
「では庭に行きましょう」
「是非な」
こうしてだった、二人は十人と共に真田家の屋敷の庭に入った。十人はその庭とそこから見える屋敷を見てだった。
唸ってだ、それぞれこう言った。
「いや、思ったよりも」
「質素ですな」
「質実剛健ですな」
「整っていますが決して贅沢でなく」
「大きいですが目立ってはいない」
「庭もまた」
そこもというのだった、彼等が今いる場所も。
「整っておるが」
「贅沢ではない」
「見事なまでに質実剛健」
「そうした場所ですな」
「当家は小さいからな」
信之は腕を組み彼等にこう言った、その彼にしても奇麗だが地味で贅沢さなぞ微塵もない服を着ている。
「贅沢は出来ぬ」
「だからですか」
「このお屋敷にしても質素で」
「お庭もなのですな」
「そして若殿の着られている服も」
「全てがじゃ」
まさにというのだ。
「当家はこうしたものじゃ」
「贅沢とは無縁」
「あくまで質実剛健という訳ですな」
「それでもよいな」
十人にだ、信之は問うた。
「贅沢でも派手でもない家で」
「我等もそうしたことに興味はありませぬので」
「殿にそうしたものは一切ありませぬ」
「殿のそうしたところにも惚れました」
「ですから」
「そうか、ではな」
それではとだ、信之も応えた。そしてだった。
信之は今度は幸村を見てだ、こう言った。
「この者達を大事にするのじゃ」
「拙者の宝としてですな」
「わしから見てもこの者達は相当なものじゃ」
十人全員がというのだ。
「まさに天下の豪傑、しかも心も確かじゃ」
「だからこそですな」
「この者達は御主の一生の宝になる」
こうまで言うのだった。
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