巻ノ二十七 美味な蒲萄その十
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「それは幾ら何でも」
「多いです」
「百石もあればです」
「優雅に遊んで暮らせますぞ」
一口に百石と言っても相当なものだ、武士の中でも馬に乗って足軽達を従える位だ。それで彼等も言うのだった。
「合わせて殿の石高の半分です」
「半分も割かれるとは」
「幾ら何でも」
「よいのじゃ」
幸村は微笑んで十人に述べた。
「いつも言っておるな、拙者は禄についてはじゃ」
「興味はない」
「冨貴にはですな」
「そうじゃ、だからな」
それで、というのだ。
「御主達に分けてもじゃ」
「苦にはならぬ」
「そうなのですか」
「うむ、そうじゃ」
その通りとだ、幸村ははっきりと述べた。
「拙者はな」
「しかし百石とは」
「あまりにも多いです」
「十石ならともかく」
「百石とは」
「ははは、主従似ておるな」
昌幸は快く出すという幸村と謙遜する家臣達を見て顔を崩して笑ってそのうえこう言った。
「無欲じゃな」
「しかしです」
「大殿、幾ら何でも百石とはです」
「我等には過ぎたものです」
「幾ら何でも」
「拙者としてはです」
幸村も言う。
「それだけ出してもです」
「この者達は価値があるというのじゃな」
「はい、との者も天下の豪傑です」
十人全員がというのだ。
「これ以上はないまでの者達です」
「だからじゃな」
「百石と言わず千石を出したいです」
大きな家でも相当な禄である。
「しかしです」
「御主は二千石、それに当家はたかだか十万石」
「それではです」
「百石が限度じゃな」
「はい、ですから」
「しかし殿」
十人はここでまた幸村にとんでもないといった顔で述べた。
「我等は十石で充分です」
「それが百石は」
「過ぎたるものなので」
「ここは遠慮します」
「それだけの禄はいりまませぬ」
「そこまで言うのならじゃ」
昌幸は彼等の話を聞いてだった、幸村にも彼等にも言った。
「御主達はそれぞれ二十石でよかろう」
「十石でも過ぎたものですが」
「二十石ですか」
「それだけ頂けますか」
「そうせよ、主の石高からな」
こう言うのだった。
そしてだ、昌幸は幸村にも顔を向けて言った。
「この者達の望む禄の二倍、どうじゃ」
「そうですな、この者達も強く言いますし」
幸村は父に考える顔で答えた。
「ならば」
「それでよいな」
「はい」
こう答えて頷いた。
「それならば」
「そういうことでな、それに禄が多いと兵も率いるが」
「我等はです」
十人共昌幸に言う。
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