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投げ合い
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第一章

                     投げ合い
 この時彼は病院にいた。そうして診察室の中で医者に必死になって聞いていたのだった。
「大丈夫なんですね」
「そうだ」
 眼鏡をかけた頭に白いものが混じった医者は目の前にいる眉の釣り上がった大きな口を持つ少年に対してはっきりとした声で答えてみせた。
「何があってもな。君は投げられます」
「そうですか、投げられるんですか」
 少年はその言葉を聞いて顔を一気に明るくさせた。彼の名は唐橋光正。野球部のエースであり既に春の甲子園への出場が決まっているのだ。だが最近腕の調子が思わしくなく今日こうして医者の診察を受けたのである。
 その医者がはっきりと答えたのだ。彼の言葉が明るくならない筈がなかった。憧れの甲子園で投げられるのだから。
「甲子園で」
「そうだ。どうして今日ここに来たんだ」
 医者はこう言って光正を叱ってきた。
「いいかね、唐橋君」
「はい」
 光正は医者の言葉に応えた。ここでは明るさを消して真面目になっている。
「その程度の腕で診察に来るんじゃない」
「すいません」
 医者に怒られて項垂れる。
「そんな弱音でどうするんだ、君はずっと投げられる」
「ずっとですか」
「そうだ」
 言葉が強くなっていた。少なくともいつものこの医者のそれではなかった。
「ずっと投げられる。だから安心しろ」
「ずっとなんですね。甲子園では」
「投げて投げて投げ抜くんだ」
 まるで光正を励ますようにして言うのだった。
「いいね、何があろうとも」
「投げるんですか」
「それから来たまえ」
 そのうえでこう彼に告げた。
「わかったね。わかったら」
「これで帰っていいんですね」
「そうだ。何かあってから来てくれ」
 医者はまた彼に言う。
「その時は真剣になおしてあげるからな」
「わかりました。それじゃあ」
 光正は医者の言葉をここまで聞いた。そうして元気よく立ち上がる。立ち上がったその姿は見事に引き締まっていた。とりわけ右腕と足腰が立派であり彼が素晴らしいピッチャーであることがわかった。
「甲子園に行って来ます」
「頑張ってくれ」
 こう励まして彼を送り出した。医者はそれを最後にこの日は診察を終えた。だがそこに若い女の看護師が来た。そうして彼に対して問うんだった。
「いいんですか、先生」
 彼女は医者の側に立っていた。そうして怪訝な顔で彼に問うのであった。
「本当のことを言わないで」
「言いたかった」
 彼は俯いていた。その俯いた顔で答えるのだった。
「本当はな」
「ではどうしてその本当のことを」
 言わなかったのかと。看護師はそう彼に問うのであった。
「あの目を見ていてはとても言えなかった」
「目ですか」
「彼は投げたいん
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