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幻に潜む英雄譚
二話
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行をしているといえば簡単かもしれないが、実際はこの素振りという一個の基礎鍛錬の中に、あと数個の基礎鍛錬を同時に行っているのだ。
 転生する際、八雲は甘い考えを捨て一切の妥協無く努力し、『天』に立つことを神の前で宣言した。それ故、八雲が考えに考え抜いた修業方法が゙これ゙なのだ。

より効率よく修業するために、より質と数をこなすために、八雲は敢えて『師』を拒んだ。

 剣術の基礎となる素振りをすることは勿論のこと、剣術を学ぶために八雲は毎日毎日、京極家が行っている剣術道場をひたすら観察し、その道場の門下生および師範代の剣術を見て『盗んで』いるのだ。
つまりこの修業は、相手の情報を瞬時に解析するための『観察眼』を手に入れるための鍛錬であり、そして観察した剣術を瞬時に模倣するための鍛錬でもあった。

 その努力のおかげで、今ではとても七歳の少年が放つとは思えない鋭い一撃を放つことができるようになった。

「ラスト、二千ッ! ……ふぅ。やっぱ疲れるな、この身体じゃ」

 二千本の素振りを終えた八雲は、汗を吹きながら自分が子供であることを再び実感した。

「やっぱもう少し成長してから修業するべきだったかな……。いや、だめだ! 頂点を目指す俺がそんな甘いことを言ってはいけない! これからもっと強くならないといけないんだからな、うん!」

 やたらとデカい声で自問自答をしながら、八雲は明日の方角を見た。
また一段と強くなるという決意をして。

「そろそろ帰るか。明日は早いし……って、あと三時間しか寝れないじゃん!? ドジったぜ……」

 手に持っていた自身の固有礼装――『鏡花水月(きょうかすいげつ)』を消して、八雲は早急に実家の方へと下山した。

 なぜなら明日は、日本屈指の名家『(まゆずみ)家』が京極家に模擬戦をするために来るのだ。
なぜ名家の者同士が模擬戦をするのかは分からないが、少なくとも八雲の記憶には『京極家』も『黛家』も原作には登場しなかった。
 つまり、両家は転生者が現れたことによって新たに描かれた設定と言うことだ。そして新たな設定である以上、八雲と同じように黛家にも転生者がいるということだ。あくまで推測ではあるが、恐らく違ってはいないだろうと八雲は思っている。

「へへっ、どんな奴か楽しみだぜ!」

 嬉々としながら下山する少年だったが、彼はすでに忘れていた。


自分が京極家の中で『空け者』と呼ばれていることを。


そう、京極家から嫌われている八雲には、家名を汚す危険人物として模擬戦の参加を認めてもらっていなかったのだ――。

















 
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