第一部
第二章 〜幽州戦記〜
九 〜軍師たち〜
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腕が当たってしまう。
「む。こ、これは……済まん」
「ん? ああ、気にせんかてええって。ウチ……」
「最後が聞き取れなかったが、何だ?」
「何でもあらへんって。さ、こっちや」
あれだけ明瞭に話す張遼にしては、珍しい事だが。
稟の様子も気になるが、今は張遼の用件が先だな。
数刻ほど話し込んで、私は自分の天幕へと戻った。
しかし、馬具の話とはな。
私のいた世界では、蹄鉄に鐙、鞍、そして手綱は当たり前だった。
だが、この世界にはそのいずれも、存在しない。
裸馬をあれだけ自在に操る馬術は大したものだが、同時に馬を乗りこなせる人間の絶対数が少ないのも、また頷ける話だ。
馬そのものが稀少で高価、という事を差し引いても、これでは騎馬隊の編成にはかなりの労力が必要となろう。
ある程度、思い描ける物を作らせてみるか……。
「歳三様」
呼びかけに、思考を中断する。
「稟か。入れ」
「はい」
何やら、思い詰めた様子だが。
「さっき、私に話があったようだな。その事か」
「……はい」
稟は、顔を上げた。
「歳三様。歳三様は、愛紗と……。星にも、寵愛を賜りましたか?」
「その事か。……そうだ、星も抱いた」
「やはり、そうでしたか。今日の星は、いつになく活き活きとしていましたから」
「だが、私は無理強いはしておらぬぞ?」
「当然です。歳三様がそのような御方でない事ぐらい、皆わかっております」
「もし、それが気に入らぬのならそう申せ。だがな稟、愛紗も星も、私は等しく愛するつもりだ」
「……卑怯です、歳三様は」
「そうかな?」
「そうです。そのように仰せられては、私は何も申し上げられません」
そう言って、頬を赤らめる稟。
誤魔化すつもりなのか、しきりに眼鏡を持ち上げている。
「愛紗は、脆さが消え、自覚が芽生えてきました。星も、一騎駆けに拘る武人としてでなく、将として動こうという様子が窺えました。……どちらも、歳三様の寵愛がきっかけなのは、疑いようがありません」
「私は、その一助に過ぎぬよ。もともと、あの二人は優秀な将の素質がある」
「それはわかります。……ならば、わ、私も……」
稟は、更に真っ赤になる。
「私は、ご承知の通り、思考が先行してしまう事が多々あります。……その、艶事の話にしても」
「止めておけ。また、鼻血が止まらなくなるぞ?」
「い、いえ! 艶本は確かに読んでいますが……。それも、想像の域を出ていません」
「ふむ」
「……その克服もあります。ですが、私は、私の至らなさを打破したいのです」
「稟が至らぬ?……戯れは止せ」
「戯れではありません。先ほどの軍議もそうです」
「稟達の提言は的確であった、そう思
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