矢矧
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私は『阿賀野型』軽巡三番艦、矢矧。
第二次大戦の終盤、坊ノ岬海戦の際、戦艦大和を守る為に乗組員共々奮戦して、沈んだ。
けれど、私は大和を守ることが出来なかった。
その無念が私の胸の奥底に燻っている。
それを隠して、私は今日も自分たちを指揮する提督の執務室へ向かう。
私の上司の提督はお世辞にも優秀とは言えない人物だ。
彼は不器用で小心者で見栄っ張りでそして、意地っ張りだ。
いつも何かに怯えている。
ううん、ずっと秘書として脇に控えている私には分かる。
提督の指揮する艦娘たちが無事に帰ってくるか、誰も欠けることなく鎮守府に帰ってこられるか、ずっと心配している。
そのくせ、帰ってくればあのビッグ7の長門、日本の期待を一身に背負った超弩級戦艦、私が身を挺して守ろうとした大和にも罵声を浴びせる。
そんなことをしているから、艦娘たちから嫌われる。
中には彼の本質を知っている娘もいるみたいだが………。
ほら、今日も………。
「ふざけんな、弾薬も燃料もただじゃねえんだ。あれだけ大口叩いといて生き残った駆逐艦も落とせねえのかよ。なにが『栄光のビッグ7』だよ。大体、赤城も赤城だ、回避もろくにしねえで何が「一航戦の誇り」だよ。てめえの誇りは敵の攻撃で大破するのが誇りか、わらわせるz………ぐぇっ!」
提督の言葉は途中で遮られる。
長門の拳を顔面に喰らったからだ。
椅子から転げ落ち、床を転がった提督を見る長門の目は冷ややかで上司を見る目ではなかった。
隣に立っている赤城は自身の誇りを否定され静かに泣いていた。
「自ら前線に出る勇気もない無能な奴にどうこう言う資格は無い。もう限界だ。出ていかせてもらう」
本来、提督から艦娘たちを解雇することはあっても、艦娘たちから出ていくと言う宣言は無い。
それほどまでに長門は憤慨しているのだろう。
口を出さず、見ていると提督は顔を真っ赤にして立ち上がり、長門の顔をぶん殴った。
「おう、出てけ出てけ!てめえみたいなのはいらねえよ!確か新任の提督にお前を欲しがっている奴がいるからさっさと荷物まとめてここから出てけ」
「…………」
殴られた長門は提督の言葉を聞いて、何も言わず部屋を出て行った。
あの一件から、私のいる鎮守府では艦娘たちの離反が相次いだ。
もう私たちの鎮守府に残っている艦娘は片手で数えるほどになってしまった。
提督は口では「ああ、清々する。五月蠅い奴らがいなくなってくれて。これで安心して眠れるぜ」と言ってはいるが、夜になると、いなくなった艦娘たちの写真の前で泣きながら謝っているのを私
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