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渦巻く滄海 紅き空 【上】
九十八 思案の外
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甘えていた自分を諫めるように。


そんな折、サクラは偶然にも見てしまったのだ。
桜吹雪の中、里を出るサスケの姿を。


声をかけようと手を伸ばしかけたものの、何か決意を秘めたその背中に、サクラは逡巡する。
自分の行動は無意味だろうか。無力だろうか。足手纏いにしかならないだろうか。

サクラは不意に、背後をみた。今出て行った者の事など素知らぬとばかりに、家族は、そして里人は皆平和を謳歌している。
さわさわと揺れる桜並木からひとつ、またひとつと雨粒の如く落ちてゆく花弁が、肩まである彼女の髪に触れた。

中忍試験中に、サスケとナルを助ける為に、自ら切り落とした髪。
肩までに短くなった髪先に触れるたび、サクラは自分があの頃と何も変わらないのだと思い知らされる。あの中忍試験の際、孤軍奮闘した自分が少しでも成長出来たなどと一瞬でも思った自身が恨めしく感じるからだ。

何も変わってないのに。アカデミーの頃と何一つ。
大した取り柄のないくノ一のままなのに。


結局のところ、サクラは同期達の成長ぶりに嫉妬していたのだ。特に同班であり仲間であり親友のナルを彼女は羨んだ。
落ちこぼれと言われ続けていたナルが実は自分の全てを上回っている存在だという事実が悔しく、同時に無力な己自身が醜い存在だとも自覚していた。

だからこそ、サクラはサスケへの恋慕は他の誰にも負けたくなかった。
サスケが復讐するというのなら、その復讐の手助けをする。その復讐を果たしたところで誰も幸せになれないとわかっていながら、サクラは彼の為なら何だって出来ると自負していた。

恋い焦がれる人の為に、自分は何もかもを捨て去る事が出来るのだと。それこそが愛なのだと勝手に勘違いし、愛ゆえに故郷も家族も友達も捨てる自分自身に陶酔した。


遠ざかるサスケの背中を、サクラは今一度見つめる。
ここで何もせず見送るだけなんて、自分の恋心はその程度だったのか。
サスケへの想いはそれぐらいのものだったのか。

サクラは一歩、前へ足を踏み出した。
サスケを追うことが、自分が先へ進める第一歩に繋がるなどと勝手に思い込んで。
自分の行動がどんなに大それたものなのかも知らないで。

――――けれど一時の迷いが後に後悔へと繋がるくらいなら。


七班になったばかりの頃。家族がいないナルを身勝手にもサクラは馬鹿にしたことがある。
それをサスケは怒った。家族がいない苦しさを突き付け、孤独の辛さをサクラに教えた。

だからこそサクラは、誰よりも孤独を知っているサスケの孤独を癒したかった。サスケがいなくなったら、彼女にとっては孤独と同じだからだ。


恋い焦がれるサスケをサクラは追い駆けた。幼き頃からずっと見つめ続けてきたその人の背中だけを見つめる。

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