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きらきらと、きらきらと輝いていた。
昨夜から降り続けた雪は鎮守府にも町同様の白化粧を施し、窓の外の世界を見慣れぬ風景へと変えていた。
街路樹の枝をたわませる雪も、舗装された道を覆う雪も、各施設の屋根に積もる雪も、皆太陽に照らされてきらきらと輝いている。
その輝きが余りに眩しいので、提督は目を閉じて息を吐いた。
目が閉ざされた事で鋭敏になった聴覚が、訓練場で遊んでいる駆逐艦娘達の声を拾い上げた。
「それー! 綾波覚悟っぽいー!」
「雪合戦なら、綾波負けませんよー」
「寒い……部屋に戻って……コタツに篭って、ねる……」
「そうかい? 僕はどうにも、無性に走り回りたい気分だけれど」
「雪だるま……作りたいかもですね」
「そうですね……隅で一緒に作りましょうか?」
夕立、綾波、初雪、時雨、高波、浜風の声だ。
史実の武勲や功労に感じ入り、時間が許す限り育て上げてきた提督にとっての駆逐艦のエース達だ。それぞれ個性を感じさせる言葉に、提督は頬を緩めて足を動かした。
散歩。
ただそれだけの事だ。ここに来てすぐには出来なかった、ごく当たり前の事である。
雪化粧に染められた街路樹を見ながら提督が歩いていると、次に加賀と扶桑の声が聞こえてきた。
「あら……あんな所に時雨が……加賀、少し拝んできても良いかしら?」
「やめなさい、扶桑。いえ、本当にやめて」
訓練場の隅にある、提督からは物置を挟んで見えない休憩所からの声だ。きっと何事かあって、いや、もしかしたら何事もなく二人して休憩所でホット缶片手に些細な事、或いは重要な事を語り合って居たのだろう。
提督は物置の向こうに居る、見えぬ二人になんとなく一礼してから訓練場から離れていった。
歩く歩く、ただ歩く。
提督は一人、ただ歩く。
特にどこか目的がある散歩ではない。目的も目標も無い、そんなただただ普通の散歩だ。
が、今日は常の散歩とは少しだけ違う。雪が太陽光を反射して目が痛いのである。似合わぬサングラスをするくらいなら、と提督は空を見上げた。太陽そのものが存在する空であるが、幾分ましである。
提督が目を細めて空を見ていると、そこに一つの小さな飛行機雲が生まれた。
生み出したのは、小さな烈風改である。
なんとなく、本当になんとなくだが提督はそれに向かって手を振った。それに気付いたのか。烈風改はくるりと提督の頭上で一回転して港の方角に去っていった。
龍驤の艦載機だ。誰にも聞かずとも提督には分かる。そんな事だけは分かるのだ。
どんな時でも、常に第一艦隊に座しあらゆる敵を粉砕してきた殊勲艦の羽があれであると、彼だけは分かるのだ。
暫し大空に消え行く小さな飛行機雲に見入っていたからだろ
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