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「じゃあじゃあ、青葉が知ってる司令官の特別な情報と交換でどうでしょう……?」
「――……お、おおおおお客様の事だから、お、おしえま……せん……けど……でも……」
顧客の情報管理は基本だろう、等と胸中で明石に突っ込みつつも、提督は開いていた窓へと辿りつき明石と青葉が居るであろう窓の下に目を向けた。
そこにあるのは雪に塗られた白い舗道だ。提督がため息をついて目を動かすと、二人の声は曲がり角の向こうから聞こえてきた。どうにも、提督が顔を出したのは二人が通り過ぎた後であったらしい。
窓を閉めて、提督は軽く首の後ろを叩いた。
今日は誰にも出会わないからだ。
常であれば提督が歩けば必ず誰かに出会う。出会えば言葉を交わし、時にはスキンシップもとられる。そのまま一緒に散歩することも在れば、一緒に遊ぶ事もある。
というのに、今日に関してはここまで誰とも出会っていない。なまじ声をきいてしまった分、何か言葉に出来ない寂しさが提督の胸にはあった。
ふと、提督は顔を上げた。
寝ている間に良く鼻にする、なんとも安心できる香りを感じたからだ。
周囲を見回し、提督はやはり誰の気配もない事に苦笑を零して肩を落した。寂しさは紛れない。
それでも、足は動く。
ただただ動く。その提督の小さな領域、執務室へと。
提督が去って暫しの後。
廊下の角から、提督の背をじっと見つめる大井の姿があった。
歩く歩く、ただ歩く。
提督は一人、ただ歩く。
そして気付けば、提督は自室の扉の前に立っていた。
ドアノブをじっと、彼の艦娘達が見れば蒼白になるだろう、きつい目つきで凝視して、だ。
提督にとって、この扉とドアノブこそが、すべての隔たりであった。大きな溝であり、深い境界線である。
たったこの板一枚、金属部品一つによって提督は狭い世界の中で暫しの間息をしていたのだ。
その癖。
ドアノブに手を伸ばし。その冷たい感触に目を細めて提督はゆっくりとドアノブを回した。
簡単に。どうしようもないほど、簡単に開くのだ。何かしらの理由があっての事だろうが、提督にとっては忌々しい扉で在る。それでも提督にとって日常の風景の一部であるのがまた、提督には忌々しいのだ。
そんな顔で部屋に入ったからだろう。
「提督、お帰りなさ――ひっ」
執務室を掃除していた山城が、小さな悲鳴を上げた。手に在ったはたきを落して、自身の体を抱きしめ、目には涙が溜まっていた。本気で怯えてるのだ。
提督はそんな山城を見て、何故山城が部屋に居るのかよりも、自身が山城にそんな顔をさせたのだと察し、自身の頬を数度強く叩いて常の相に戻した。
そして、まだどこか怯えた様子で提督を見る山城へと歩み寄り、
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