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う。提督は冬の刺すような寒さを感じて黒い外套の襟をかき合せ一つ小さく震えた。
周囲を見回し、目当てのものを見つけるとそれに足を向けた。
「暁はレディなんだから、コーヒーくらい平気よ!」
そんな声を聞いた。
提督の視線の先にあるのは、道におかれた普通の自動販売機である。そこで売られているのは、季節に合わせた缶の飲料だ。
今は冬であるから、そこにあるのは当然ホット缶ばかりである。自身もまたそれを欲する提督は、聞こえてきた暁の声に苦笑を浮かべて自動販売機へと近づいて行く。と、もう一度提督の耳に声が届いた。ただし、その声は暁の物ではない。自動販売機の向こうから響いたのは、もう一人の声だ。
「凄いですね。雪風はコーヒーが全く飲めません!」
何故か自信満々、といった雪風の言葉に、提督は苦笑をさらに深めた。
提督は知っている。暁は確かにコーヒーを口にするが、それはコーヒージュースとも言えるような甘い奴だけだ。提督好みの水出しのブラックではない。
その辺りを少しばかり突いて、暁を慌てさせて見ようか、という悪戯心が提督の胸に芽生えた。少しばかり足を速めて自動販売機へと歩み寄り、そっと正面に回った。
そこに、誰も居ない。
少女二人分の温度や香りは確かにその場に残っていたが、二人の姿はなかった。
提督は小さく首を横に振ると、外套から財布を取り出し、冷たくなった指先で小銭を不器用に掴んで自動販売機のコイン投入口に入れた。
提督はどのボタンを押すかで少しまごついた。彼好みのブラックが無いのだ。あっても微糖までである。
人体としてのエネルギー源である糖分を摂取する事を考えれば、確かにラインナップはそれでも良いだろう。が、コーヒーや紅茶といった嗜好品は、もっと幅を広げるべきだ、と提督はため息をつき、選んだ微糖のコーヒーを取り出し口から取り出して、外套のポケットに入れた。暫くの間は、これがカイロ代わりであるからだ。
今度大淀にラインナップの見直しを相談しよう、と一つ頷き、提督は自動販売機に背を向けて、また散歩を始めた。
歩く歩く、ただ歩く。
提督は一人、ただ歩く。
鎮守府と同じ様に、赤レンガ造りの倉庫群を提督が眺めていると、どこかから音が響き始めた。それなりに入り組んだ場所であるから、音一つにしても反響が激しく、それがどこから響くものであるのか提督にはさっぱりであった。
が、次に耳に届いたものは、提督にとってさっぱりではなかった。
「長良さん……! 遅れていますよ!」
「この……! 負けないよ! 負けないんだから!」
倉庫群の中で響き渡る軽快な足音と、その主達の吐息と声だ。
神通、長良である。
「司令官の為にも……! 今回の勝負は貰うよ!」
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