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常の執務室で、常の通りに書類に目を通して提督はペンを走らせていた。いや、サインでは通らない、大淀のチェックの後大本営に送られるような書類もあるにはあるので、判子も使っての書類仕事だ。
最近袖を通した第1種軍装――冬用の黒い海軍士官服の似合わぬ提督でも、書類に目を通す姿だけはそれなりの物だ。社会人時代にも経験した書類仕事であるから、提督も特に気負わぬ姿だ。
それでも、やはり鎮守府とは軍属だ。書類の内容は兵装、兵站、軍事情報などが絡んでくる為、提督にとってはやはり異質な世界だ。それを数字や文章で見ても、彼にはあやふやな物に見えてしまう事すらある。
なれぬ数字に惑わされ、脳に要らぬ負担が掛かる事もしばしばで、当然それはミスに繋がる事も在るのだが、その為に提督には秘書艦がつく。
「司令官……これ、本当に通してしまっても……?」
この日も、そうであった。
白魚の如き指が差し出す書類を受けとり、さっと目を通す。内容は、球磨の長期休暇の申請だ。球磨直筆で書かれた書類――というより手紙は、姉妹の面倒を見ることに疲れたから、暫く執務室で息抜きがしたいという類の嘆願が丁寧に、かつ達筆に記された物であった。
提督は暫しそれに見入ってから、そっと目を離して困惑顔で頭をかいた。
彼の記憶ではこの書類に目を通した記憶が無い。何か別の事と混同したのか、サインこそまず間違いなく提督のそれであるのだが、まったく覚えがないのだ。
「駄目、っていうか球磨さんはあれだ、長期休暇を執務室でって、どうやって過ごすつもりなのだろうね?」
「それは……司令官の傍にあって、同じ時間を過ごしたいという事では……?」
「いやあ……僕の息が詰まるなあ……」
秘書艦の返しに、提督は肩をすくめた。
彼自身若い男であるから、見目麗しい女性が傍にいるのは一種の潤いとも言えるだろうが、長きを一緒となるとそれは流石に考えなければならない事だ。
将来を約束した女性であれば、それもまた一つの練習期間と考えて頷く事も出来ただろうが、そうではないのだから提督としても許可できない事である。
「それに、クマーが長期休暇入ったら、大変な事になるしねぇ……」
この提督の言葉に、秘書艦は同意と頷いた。
球磨という艦娘は軽巡四天王と呼ばれる五人の一人であり、その親しみやすい個性や、長くこの鎮守府にいる艦娘達の面倒を見てきた事もあって皆から愛される艦娘だ。
であるから、そういった艦娘が抜けた穴と言うのは中々に埋められない物である。更に言うなら、球磨はあの個性的な球磨型姉妹の長女だ。
重石が外された場合、どうなるか提督には予想もつかないのであるから、到底認める事など出来ないのである。
提督としては、妙高、川内、球磨、陽炎の長期休暇だけは、この
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