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執務室の新人提督
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以上醜態を見せられなかっただけで、早霜からのお茶会や誘いに何か思って断った訳ではないのだ。
 
 どこか縋るように見上げる早霜の双眸に、提督は空になった湯飲みを机に戻して笑いかけた。
 
「神通さんはそんな人じゃないだろう? 今度はお昼にでも誘って見たらどうだい?」
「……えぇ、そうですね」

 気休めだ。提督の言葉は気休めだ。だというのに、聞いた早霜は笑顔だ。少々淡い笑顔であるが、それは愛想笑い等ではない。むしろ安心した様な、胸を撫で下ろす様な笑みだ。
 提督はその相に、何か引っかかりを覚えた。何か胸に刺さっていた物が取れたように見えたからだ。
 提督の相に浮かぶ疑問を見て取ったのか、早霜は小さく頷いた。
 
「少し前のことですが……訓練中に、少しありまして……」
「少し?」
「はい……」

 当時の事を思い出しているのか。早霜は目を閉じて天井を仰いだ。仰げども彼女の瞳は閉ざされているのだから、そこには何も映らない。もし映るものがあったとするなら、その時の情景だけだ。
 
「二水戦の訓練中に、神通さんが心構えを口にして……」
「心構え?」
「……はい」

 そこで、早霜は目を開けて提督を見た。その双眸は幽かな常の早霜ではなく、まるで訓練中の神通が乗り移ったかの如く鋭い物であった。変化に驚き、僅かに目を見開いた提督に構わず、早霜は神通の瞳のまま、神通の言葉を紡いだ。
 
「仏と会えば仏を斬り」
「あぁ、神通さんそっち系も読むんだ……」
「鬼に会っても仏を斬る」
「……」

 提督は突っ込まなかった。いや、突っ込むべきなのだろうが、神通の瞳を宿した早霜の相と言葉に、果たして突っ込んでよい物かどうか迷ったのである。
 
「……私達も、今の提督と同じで……その、どう返せばいいのかと迷ってしまい……」

 そしてそれは、当時の早霜のまた同じであった。もう常の早霜の相に戻って口元を掌で隠す早霜である。
 提督としても、なんとも言えない物である。間違いは誰にでもある。これもまた、先ほどの夜道で会った云々と同じで、流すべきだと提督は考えて突っ込まないことにしておいた。
 
「まあなんだ……そういう事もあるという事で……」
「……そう、ですね」

 二人は同時に頷いてこの話題を終わらせた。
 早霜はそっと一礼してから正座に戻り、そのまま器用に下がってソファーへと近づき、そこに腰を下ろして再び書類に目を通し始めた。実に奇矯な行動である。それが楚々と行われるから、尚更奇妙である。が、反面それでこそ早霜とも思えるのだ、提督には。
 見ていて飽きない艦娘が多いこの鎮守府であるが、早霜などはそのうちの五本の指に入るのではないだろうか、と提督は妙な感心をしつつ数度頷いた。
 
 それでも、提督の視界の隅
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