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が提督の耳に確り届く物だから、提督はそれが声ではなくなにか別の物ではないかと信じた。
「早霜のお茶……どうですか?」
「うん……? んん……」
美味しい、と先に提督は伝えたにも関わらず、早霜は問うて来た。となれば、それはもっと別の答えを待っているという事だ。少なくとも提督はそう受け取った。だから提督は、目を瞑ってもう一度早霜が淹れたお茶を口に含み、ゆっくりと飲み込んだ。少しばかり冷めていたが、まだそれは提督の好みの範疇だ。お茶で潤った舌先で下唇を軽く湿らせてから、提督はまた早霜を見下ろした。
「早霜さんのお茶は、美味しいね」
本心だ。前と差して変わらない言葉であるが、これが早霜の淹れた物で、それが美味であると提督は言っただけだ。本当に先ほどの言葉と差して変更点が無い。
が、提督の言葉を聴いた早霜は満足げだ。
首の下――自身の鎖骨辺りを軽く弄りながら、早霜は幸せそうな笑みで頷くだけだ。
眼前に居る提督にも読み取れない、静かな、ただ静かな歓喜である。早霜の指先の熱さを知るのは、服の下で掴まれたペンダントとなって吊るされた誰かの第二ボタンだけである。
「カレーもそうですけれど……艦娘の数だけ、それぞれの味わいがありますからね……ふふふ」
「うん、お茶、な。お茶だから」
早霜に他意はないだろうが、聞いている提督の方が思わず訂正したくなる様な言葉だ。せめてもの救いは、ここに早霜と提督以外が居ない事と、呟いた早霜の相が楚々とした、他意を感じさせない物であった事だろう。
「そういえば……この前、夜道で神通さんに会って、私達の部屋でお茶でもどうですかと誘ったのですが……」
「ですが?」
お茶繋がり、という事だろう。
早霜の世間話に提督は長くなった場合も考え、冷める前に飲み干そうと湯飲みを傾けながら目で先を促した。早霜はそんな提督の視線に目をあわせて頷き、また口を動かす。
「何か……用事があったようで、すぐ立ち去られてしまいって……肩を震わせながら、目尻に涙まで溜まっていたのですけれど……私、神通さんに何かしてしまったのかしら……と」
「……」
提督は無言である。
まさか言える訳も無い。夜道で会った部下に、上司が涙が出るほど驚いた等と、早霜の為にも神通の為にも言える筈が無かった。
早霜という艦娘は美しい少女であるが、その美しさにはどこか浮世離れした透明さがある。それが夜空の月や、頼りない街灯に照らされると、この世の物とは思えない影を落して早霜を覆ってしまうのだ。これは提督の第一旗艦である山城も同じだ。
勿論それらは、早霜や山城が悪い訳ではない。もって生まれた、どこで使えば良いのかイマイチ分からない特徴だ。ただ、神通としては二水戦の旗艦として、同じ二水戦の早霜にそれ
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