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執務室の新人提督
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どこか母性の様な物を感じて、提督は早霜を見下ろした。

 そう、見下ろした、である。

 個性的な艦娘、というのはこの鎮守府にあっては歩けばぶつかる、と言うほどに多いが、この早霜という艦娘もまた実に個性的な存在だ。
 言葉や仕草一つにしてもどこか幽かな香りがある癖に、一度言葉を交わせば忘れられない所がある。口数は少なく、特に前へと出たがるような艦娘でもないのに、だ。
 その個性の一つが、今提督の前で為されている早霜の行為だ。それをじっと提督が見つめるからだろう。
 早霜は小さく首をかしげて淡い唇を動かした。
 
「司令官……どうかしましたか?」

 執務机の前で、ちょこなんと正座を崩した――いわゆる女の子座りなるもので座したままだ。
 
「……いやあ、立ってもいいんだよ?」
「いいえ、いいえ。司令官……それでは司令官を見下ろしてしまうわ……」

 提督の言にも、早霜はそう返して首を横に振るだけだ。この少女の線引きの一つであるのか、それとも何かもっと他に理由でもあるのか、兎に角早霜という艦娘は提督を見下ろす事を良しと出来ないらしく、見下ろす様な事態に陥った場合はこうして自身が座ってしまうのである。
 提督にお茶を渡した後、ソファーにも戻らず、態々一礼して、だ。
 奇異な行動である。まず一般的な社会にあって誰しもが頷けるといった類の物ではないだろう。
 だが……ここは一般的な社会ではない。
 
 艦娘達の本分は戦闘だ。守る為の戦闘であり、攻める為の戦闘だ。遠征は戦う為の物資を集める任務であり、演習も牙を研ぐ為の模擬戦闘で、最終的にはどうあっても戦闘に帰結する。
 ねじが一本足りない、歯車が一つかみ合っていない。その程度は、だからどうした、と鼻で笑ってしまえるのが鎮守府と言う小さな世界だ。
 
 見下ろすのが不敬だと早霜は座すが、彼女が現在行っている行為もまた不敬だと見る者は見るだろう。例えそれを指摘しても、早霜はただただ座るであろうから、これはまことに立派な個性である。奇矯と言った方が、恐らくは正しいのだろうが。
 
 立派な、とは言ったが誉めるようなものでもない。故に提督は早霜の、きょとんとした様子に肩をすくめて頭をかくだけだ。少なくとも、提督にとって今日の早霜は許容できる存在であるから尚更だ。
 随分前の様に、誰かが開けた扉の隙間を潜って、誰にも知られず入り込んできた時に比べれば、今日などはドアをノックして普通に入ってきたのだから、提督としてはその程度流してしまった方が心の均衡を保てるという物である。
 
「ところで、司令官……?」

 沈黙を嫌ったのか、それともただの問いかけであるのか。
 早霜が提督を見上げて小さく口を動かした。淡い唇はその作りに相応しく僅かにしか動かない。その癖、不思議と声
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