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執務室の新人提督
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だ、と曙は漣が目を向ける先に視線を飛ばすと、なるほどと思わず頷いた。
 ここがダンスの練習場所となったのは、ここが人通りも絶えがちな、寂れた港だからだ。
 使われていないそこは彼女達にとって丁度良かったのである。
 
 だと言うのに、何故だろうか。曙と漣の視線の先には一人の姿があった。明らかにダンスメンバー以外の姿だ。しかもその姿は、徐々に大きくなってきている。
 つまりは、この港にいる二人に近付いて来ているのだ。そして更には――その相手に問題があった。曙が顔に手をあて、天を仰ぐ程度には問題がある。
 
 ――あぁ……そりゃ、漣がそんな顔をするわよね……あんたじゃ。
 
 胸中の呟きは、当然零した当人である曙にしか聞こえない物である。であるのに、二人に近寄ってきた艦娘にはある程度読めたのか、それともただの偶然か、にやりと不敵に笑ったのだ。
 勿論、それは顔を覆って天を仰いでいた曙には見えなかった表情の変化であるが、目にしてしまった漣と言えば、それはもう大変な事であった。
 具体的にどれくらい大変な事であったかと言えば、立ち上がって
 
「ふしゃー!」

 と叫んで荒ぶる鷹のポーズを取った程である。
 ちなみに、それを見た曙は、案外普段通りだと安心した。
 さて、歩み寄ってきた艦娘だ。彼女は何を思ったのか、漣の威嚇であろうその構えを見ると同時に、どこからかスケッチブックを取り出し、次いでこれまた何処からか出現した手の中のペンを走らせ始めた。
 
「あ、漣、もうちょい足上げられる?」
「なんだとこのヤロー! 漣なんざアウトオブ眼中だとこのヤロー!?」
「あ、ちょーっと動かないで。 もうちょいだからさ」
「あ、ごめん。これでいい?」

 等と会話する二人を視界におさめて、相変わらず仲が良いのか悪いのか分からない、と曙は首を横に振った。更に言えば、曙には漣が口にしたアウトアブなんとかも分からない物であったが、朧や漣が意味不明な事を口にするのは日常茶飯事であるから流しておいた。

 このまま二人に会話させてもろくな事にならない、と理解している曙はスケッチブックにペンを走らせている艦娘に溜息交じりの声をかけた。
 
「で……あんたは何しにきたのよ、秋雲」

 曙の問いに、丁度スケッチを終えたのか。提督とお揃いの黒い外套を羽織った秋雲はスケッチブックを背後の鞄に直すと曙に顔を向けて応じた。
 
「いやー、冬を前にすると色々焦ってさぁー……まぁなんてーの? ちょっと気分転換でうろうろしているってもんかな?」

 何ゆえ冬を前にすると焦るのかなど、曙にはさっぱりであるが気分転換云々は理解できた。秋雲という艦娘は艦娘のインドア派代表の様な存在で、自身の部屋に篭りがちだ。
 ただ、長くを同じ場所で佇んでいると気
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