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訳が無い。
ゆえに、彼女達は一曲終わるとすぐにプレイヤーを止めて適当な箱などに腰を下ろした。
彼女達の装いは、普段の訓練でも使うスポーツウェアだ。汗をふくみ、体に張り付くそれを漣は摘んで肌から放し、胸元を扇ぎながら風を通していた。
「うぉおー……あっちぃー……」
「……ちょっと、漣」
曙はと言えば、箱に座ってタオルで額を拭っていた。スポーツドリンク飲もうとしたのか、あいている左手は、自身で用意したのだろうそれに向かって開かれている。
が、それを掴むより先に、妹の無防備で恥じらいを捨てた行動に思うことがあったらしく、口を動かすことを優先させたのだ。
そして曙のその言葉に対する漣の応えは、
「まぁまぁ、ここにはご主人様もいないから」
これである。
曙は、確かにそうであるが、と同意しつつも、釈然としない顔でスポーツドリンクを手に取り口をつけた。慌てず、急がず、ゆっくりと中にある塩分を含んだ有名なドリンクを嚥下して行く。
喉がある程度潤うと、曙は口を放して水筒を箱の上に置いた。
「で、どう? あんたは何か掴めたの?」
「んー……漣ダンスは不慣れだから、まだなーんも、って感じかな」
「その割りに、結構笑顔で踊ってたじゃない?」
「ま、そのくらいは気持ちってモンっしょー? 那珂ちゃんみたく、とはいかないけど、漣達が笑顔じゃなきゃ、見に来る皆も笑えないし?」
妹の言葉に、曙は顔をしかめた。
漣は練習の中で何も掴めていないと言うが、曙からすればその思考は何かを掴んだも同然と思えたからだ。少なくとも、曙は漣の様な考えは持っていなかった。それどころか、なるほどと理解した今でさえ、それが不可能に近いと感じ思わず顔をしかめたのだ。
誰しも、得意不得意がある。
曙にとって笑顔など、まず出せないものだ。捻くれ者で、素直になれない彼女にとっては相当ハードルの高い問題である。ただ救いがあるとすれば、那珂達が曙にそこまで求めていないと言う事だろう。こういった事に無関心だろう曙が参加してくれただけでも、彼女達からすれば大助かりなのだ。流石にそれ以上は、という事である。
曙は内心、重く長いため息をついた。
期待されないというのは、それはそれで来る物があるのだ。実際には期待されない、ではなく、それ以上求めるのも悪い、なのだが曙からすれば一緒だ。
では笑顔で踊れるかと言えば、やはり無理であるから曙は重いため息をつくのだ。
「あ、そうそう。漣、ちょーっと気になったんだけど」
「なによ?」
顔を向けず妹の言葉に応じた曙の耳に、そこから先は入ってこなかった。何をもったいぶっているのだ、と曙が漣に目を向けると、漣がきつい目で一点に凝視して黙り込んでいた。
さて、それはなん
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