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力はまったく欠けているのだ。
類は友を呼ぶ、欠けているから補い合う。これはただ、それだけの事であった。
しかし、天龍はそこまで考えて頬を朱に染めてまた頭をかいた。乱暴、とまではいかないが、雑なかき方である。
お似合いと自身で言っているようで、気恥ずかしさを覚えた為の仕草だ。乙女な彼女からすれば、受け入れたくも在り、受け入れがたくもある事なのだろう。
木曾はそんな天龍に目を点にして問うた。長い付き合いの彼女にしても、天龍の今の姿は奇異に映ったのだ。
「どうした? 虫でも頭に飛んできたのか?」
「違うっつーの! あぁもう……なんでもねぇって、なんでも」
乱暴に手を振って返す天龍の様子に、まさかそんな乙女的思考で雑な行動を取っていたとは気付けない木曾は首を捻ったが、相棒の言い分を信じて黙った。天龍はと言えば、先ほど思った事を脳裏で文字にしてすぐ消した。それで消えてくれと念じながらだ。
が、意識すれば意識するほど思考の中にあるそれは一際存在感を放つようになるものだ。
天龍のそれもご他聞に漏れずそうなってしまった。なった以上、天龍は諦めて舌打ちしながら花に集中し始めた。
が、それは木曾のそれより長かった。
理由と言えば、彼女が木曾とは違い花言葉に詳しかったせいである。何故に花言葉に詳しいのか、と問われれば、この庭を管理するに当たり本を読んで覚えた、と応える用意のある天龍であるが、実際はこの庭の面倒を見る前から知っていた。提督から花を贈られた際、それが何を意味するかを察する為に覚えたのだ。実に乙女である。
そして言うまでもないだろうが、彼女が提督から花を貰ったことはない。いや、ここの艦娘達は誰一人としてそんな物を提督から貰った者は居ない。
あの提督にそんな事を求めること自体が大間違いなのだが、少女の体と乙女の心をもつ彼女達には関係ない話である。
まぁ、ちょっと誉められたりしたらすぐキラキラする彼女達であるので、そういった意味でもお似合いの提督と艦娘ではあるのだが。
と、天龍が足を止めた。
天龍が見つめる先にある花壇は、神通がよく世話を見ている花壇だ。そこに咲く花があまりに愛らしくて、そしてその花言葉がいじらし過ぎて足が止まったのだ。
その花もまた、今年の暖かい冬の為に咲き残った花である。本来ならそろそろ無い筈の物、というのがまた天龍にはいじらしく見えたのだ。
彼女はそっとその花に近寄っていった。指で軽く小さな太陽にも見えるその花を撫でると、やはり僅かばかりの弱さが見えた。本来ならもう散っている花だ。暖かいからといっても多少の無理の痕はある。限界だ。この花はもう散るより他無い。
だから天龍は、意識もせず声を零した。
「なぁ……お前、最後に人に愛されたいか?」
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