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執務室の新人提督
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よって改にすらなっていない。流石にそれでは、幾ら錬度を上げようと限界という物がある。
 結果、彼女は火力や装甲といった性能においては、部下である駆逐艦娘にすら及ばないのだ。
 
「馬鹿言うなよ、天龍。ここでお前をそんな目で見る奴がいるもんか。提督だって勿論そうだぞ」

 それでも、木曾の言うとおり天龍は決して見下されない。
 石油の一滴は血の一滴に値する、とは彼女達が艦であった戦時中の言葉であるが、この鎮守府を生かすために必要な血肉を求め、運び、戻ってくるのはいつだって天龍とその部下達だ。
 遠征は物資の運搬だけが仕事ではなく、時と場合によっては予期せぬ遭遇戦もある。天龍とてそれは何度も経験したことだ。
 天龍自身は確かに弱い。錬度を上げても、彼女の艦娘としてのスペックは既に頭打ちだ。
 ただし、戦闘経験は生きた。数字化されないそれは、天龍という艦娘に部下達を手足の様に動かせるだけの指揮能力と、先を見る目を与えたのだ。
 
 故に、この鎮守府で天龍を侮る者はいない。いる筈が無い。彼女達の艤装を動かす為の石油も、修理の為に、或いは武装開発の為に必要な鋼も、敵を討ち滅ぼす為に必要な弾丸も、戦闘機を作り上げ、失った分を補う為に必要なボーキサイトも、更には高速修復材も、殆どが天龍達の手よってこの鎮守府の各倉庫にもたらされた物だ。
 
 戦果の面での英雄が木曾や大井、北上であるのなら、それらを助けた兵站での英雄は天龍達である。それは紛れも無い事実だ。
 
「お前のことを馬鹿にする奴がいるなら俺に言え、それはそいつが馬鹿なんだ。ぶん殴ってやる」

 海上以外ではポンコツと言えど、間違いなくイケメンの木曾である。それは外貌だけの話ではなく、内面さえもイケメンなのだ。
 
「でもその後球磨姉さん達にやり過ぎだって怒られたら、天龍からも支援頼む!」

 ただし内面もだいぶんポンコツだった。
 天龍は息を吐きながら俯いて頭をかいた。意識もせず、特に思うことも無く、龍驤や青葉と同じ様にうつってしまった提督の癖だ。それでも、それはもう天龍の癖である。これは彼女を彼女足らしめる一つであり、それは木曾も同じだ。
 
「あぁもう、分かった分かった。俺もなんか選ぶから、ちょっと待ってくれ」
「おう」

 胸を張る木曾は、そうあってこそ木曾だ。海上での凛々しく勇ましい姿も木曾であるなら、日常での足りていない言動もまた木曾だ。
 誰も彼も、満ち足りては居ない。どこか欠けている。
 それは天龍や木曾だけに限った話ではなく、恐らくこの鎮守府にいる全ての存在がそうであった。それはしかし、当たり前ではないか、と天龍は花を選びながら小さく笑った。
 
 この鎮守府の提督こそが、彼女達にとって誰よりも提督足りえる存在でありながら、軍人としての能
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