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中にあって、この季節に咲く有名な花が無い事に天龍は苦笑を浮かべた。
――やっぱり、誰も植えねぇか、あれは。
天龍が思い浮かべたあれ、とは先ほど天龍が胸中で呟いた、天龍自身も前には艦首に頂いた菊である。
菊というのは武家の家紋としても天皇家の家紋としても使われ、菊見の宴や菊人形にと人々の目を楽しませてきた反面、墓前の花、仏壇の花、葬式の花として使われるためかどうしても人に死を連想させるところがあり、縁起が悪いといわれて嫌厭されやすい。
特に薩摩藩士を多く受け入れ――というよりも彼らが起こしたとも言える海軍は、武家の色が濃く、菊の様な、花がそのまま落ちる物は首が落ちる姿に似て嫌ったのである。同様の散り方をする椿も同じだ。ただし、軍艦には菊花紋章が使用されたのだから、この辺りは実に複雑な思いであっただろう。
或いは、純粋な武家が消えた事で斬首という不名誉な刑に対する忌避感が薄れたのか、天皇家への忠誠がそれに勝ったのか、それとも花は花、菊花紋章は菊花紋章と別に考えていたのか。
兎にも角にも、吉祥や縁起、通例等に重きをおく頃の海軍に生まれてしまった多くの艦娘達は、そういったところを色濃く受け継いでいる事が多く、それはこの庭の草花の面倒を見ている名取や神通達も同じであった。
当然、天龍も同じである。
と、天龍の肩を木曾が叩いた。天龍が振り返ると、そこには笑顔の木曾の顔があった。
「終わったぜ」
「あぁ、んじゃ執務室に行くか」
「おう、天龍も早くしろよ」
その木曾の言葉に、天龍は疑問符を顔に浮かべて首を傾げた。早くしろも何も、天龍には用意する物など何も無い。精々木曾についていって、その後提督と話がしたい程度だ。
であるのに、今度は木曾が天龍と同じ仕草で疑問符を浮かべた。
そして木曾が口を開いてこう言った。
「お前は花を贈らないのか?」
「おまえなぁ……」
あぁなるほど、と天龍は納得した。それはもう深く納得した。
納得はしたが、それを頷けるかどうかは別である。当然、天龍は頷ける物ではない。
木曾は良い。彼女はそういった姿が絵になるし、まぁ残念でポンコツなイケメンだ。
が、天龍はそういう艦娘ではない。木曾と並べばおっぱいのついたイケメンコンビと称されるだけあってなかなかに凛々しい顔立ちであるが、こう見えて天龍という艦娘は立派な乙女だ。そして龍驤はおっぱいのないイケメンで立派な乙女で、提督はおっぱいもない立派なフツメンだ。
「お、俺はほら……そういうの……別に、いいし……お前と違って特にこれっていう戦果もないし……」
天龍、という艦娘は戦場ではこれといった戦果も無い目立たない艦娘である。
しかしそれは当然の事であった。なにせ彼女は、提督の意向に
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