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くる。
抵抗する為の心も心地よさにまったくふるわず、抗う為の気概も根元からぽっきりと折られる。安心しきった気の抜けた顔を一つさらす程度ではないか、と思われるかもしれないが、男も20を越えれば子供のままでもそれなりに一端のプライドをもつ様になる。
社会に出れば尚更だ。
小さくとも成し遂げたことがあり、それを共に誇れる同僚も得たのであれば、自身のだらしない姿が同僚や仲間たちをも下げてしまう物だと理解し始める。故に、そうそうだらしない姿を見せないようになっていくものだ。
提督もその辺りは同じだ。
だからこそ、彼は鳳翔ともう一人の、ここには居ない艦娘を大いに恐れるようになったのである。
――あぁ、鳳翔さんだけってのがせめてもの救いかぁ……
と胸中で呟いた提督は、しかしすぐ絶望へと誘われる事になった。
不幸な事であった。まったくもって不幸な事であった。彼の嫁ばりに不幸な事であった。
提督には一水戦から常に護衛がつくようにされている。それはどんな事態でも、どんな時でも、だ。勿論、今この時にも提督には護衛がついていた。
その護衛こそが――
「ずるいー! ずるいずるい鳳翔さん! 雷も司令官に頼ってもらいたいのに!」
「あらあら……」
鳳翔は頬に手を当てて困った相で微笑むが、提督からすれば比叡カレーを前にして、更に比叡にスプーンであーんとされたような物である。何せ、鳳翔と共に居なくて良かった、と思い浮かべた相手が今目の前で頬を膨らませて提督を見下ろしているのだ。
駆逐艦暁型三番艦雷、という艦娘は恐らく殆どの提督にとって感慨深い存在であろう。性能は普通の駆逐艦で、特に何か優遇された物がある訳でもないが、その個性が余りに中毒性が高いからだ。
その中毒性というのが、鳳翔に勝るとも劣らない――いや、場合によっては勝る母性である。
司令官優先、何事も司令官の為。そういった姿勢が一つ一つの言葉から垣間見れる、なんとも献身的な幼な妻――幼すぎる妻系艦娘なのだ。
兎にも角にも、これまた提督にとっては生身で向かい合うにはなかなかに覚悟が必要な相手である。
そんな相手が、よりにもよって二人揃って提督を見下ろしているというのが、提督の現状であった。
まな板の上の鯉はこんな気持ちであったのか、と妙な理解をした提督は、一人そっと胸の前で十字を切った。ちなみに彼は基督教ではなく、日本人らしい無宗教である。
「雷も! 雷も提督に何かしてあげたい!」
「そうね……提督、どうされますか?」
見下ろす鳳翔と雷の瞳は、慈愛に満ち溢れて目をそらしたくなるほど輝いていた。
実際提督は二人から目を離し、遠くを見つめたまま頷いた。無垢に輝く瞳を相手に、駄目になるから嫌です、とは言えないとい
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