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たのは、目を丸めていた筈の鳳翔であった。
「いけません、提督。些細なことで大きな事になる事もあります。さぁ、どうぞ」
明石の酒保で扱っている袋から、耳かきを取り出して鳳翔は自身の膝をたたいた。提督からすれば、それが何を伝えたいのか分かるが、さてその手にある物は随分と準備が良いではないか、と問うてみたくもなるのである。
提督同様、鳳翔にもこの程度なら言葉がなくとも分かるものである。彼女は口元を手の甲で隠しながら微笑んだ。
「さきほど、丁度明石の酒保で購入しておいたんです。ふふ、こういう事もあるんですね?」
まったくの偶然なのだろう。鳳翔の言からは嘘は感じられず、であればそうなのだろうと提督はあっさりと信じた。が、流石に彼はすぐには動かなかった。
それは分かる。理解もした。納得もした。
だがしかし、それに頷いたとなれば、彼は鳳翔の膝に頭を置かねばならない事になるのだ。
提督はじっと鳳翔の膝を見た後、目線を上げて鳳翔の顔を見た。
そこにあるのは、ただ提督を待つ美しい女の相であった。含むものなど一切無く、ただただ提督に尽くそうとする古き良き佳人の香りがそこにある。
果たしてそれは、自身が汚して良いものであるのか、と提督は悩み、だがすぐに思い直した。直された、と言うべきか。
逡巡する提督に、鳳翔が僅かに眉を下げたのだ。それは鳳翔の微笑が悲しみに翳ろうかという兆候であり、それを目にした以上提督としてはもうすべき事は一つであった。
提督は肩をすくめて頭をかいた後、少しばかり座る場所を調整し、腕の中に居たオスカーの胸中で謝りながらベンチに離し、そっと鳳翔の膝に頭を置いた。
オスカーは二人の姿を不思議そうに眺め、そこから離れる気配は無い。
鳳翔も、そんなオスカーに小さく頭を下げてから、提督の頭を優しく一撫でしてから耳に顔を近づけた。
「あら……提督の耳はお綺麗ですね?」
「まぁ、それなりに綿棒とかで清掃してますんでー……」
鳳翔の言葉に提督は普段通りの調子で返したが、内心では大いに焦っても居た。
耳に顔を近づけて囁く鳳翔の声は、余りに心地よすぎるのである。おまけに吐息までかかるものであるから、提督としては落ち着けないものであった。
心底からの笑顔で、提督に膝枕をして耳かきをする鳳翔という艦娘は、提督にとって在る意味では天敵の一人と言っても良い存在であった。
家庭用ゲーム機をぴこぴこ、と言い切ってしまえるほど独特な艦娘であるが、溢れんばかりの母性で提督を包み込もうとする慈愛に満ちた鳳翔の在り方は、提督にとって恐れるに足る物であったのだ。
駄目になる、などとかつては提督も画面越しに口にしていたが、実際にその暖かさに包まれてみるとまた違った物が見えて
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