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明石の酒保から少しはなれた所にある休憩所のベンチで、その猫は一匹たそがれていた。
常であれば、ここに居れば自身を見かけるとすぐよってくる駆逐艦娘なども多数居るのだが、現在は主要メンバーは哨戒、警邏、遠征にと出撃中であり、また多くの艦娘達は自主訓練に打ち込んでいるような時間帯である。
このままでは、常の様に腕の中へと飛び込み暖を取ることも叶わないか、と思った猫は仕方なしに部屋に戻って飼い主にくっつくか、と顔を上げ。
そして休憩所の前の道を歩む、自身と同じ白い帽子を被った男を見つけた。
「あぁ、ここかー」
提督は腕の中でごろごろと鳴く猫の喉辺りを撫でていた。自動販売機の横にあるベンチに座る提督の腕の中には、提督と同じ帽子を被った猫がいた。
撫でられて目を細める猫の様子に、提督は笑みを深めて今度は猫の後ろ首辺りを揉み始める。
これもまた気持ちよいのか、猫はごろごろと鳴いて答えた。
「オスカーは人に馴れてるなぁー」
と、提督は腕の中にいるオスカーを見ながら、半ば呆れ、半ば感心しながら肩をすくめる。いつぞや、雪風の腕の中にいたこのオスカーなる猫は、ドイツ艦娘達が住まう部屋で飼われているが、猫の性であるのか、それともこの猫の癖であるのか、どうにも一所にじっとしていられない様で様々な場所でその姿を見られた。
そういった、じっとしていられない所が雪風とも合うらしく、この一人と一匹のコンビは最近の鎮守府では珍しいものではなかった。
まぁ、見た状況によっては、夜道で山城に出会うより怖かったと言われる組み合わせでもある訳だが……。
さて、そんなオスカーであるが、こういった猫は家猫と違って様々な人々とすれ違い、或いは関わりを持つためか人に馴れやすい。
家だけで生活する猫などは、それこそ他人を見れば威嚇を始めることもあるのだが、人と接する機会の多いオスカーの様な猫はすぐ人に馴れる。
この提督に見せるオスカーの相など、まさにそれだ。
提督はオスカーを知っている。オスカーもなんとなく提督を知ってはいる。が、こうやって提督がオスカーを抱き上げたのはこれが初めてだ。
だというのに、オスカーは完全にリラックスした姿である。無用心ではないか、と思う反面、これもまたオスカーの処世術、の様な物なのだろうと提督は感じ、自分と違って器用な物だと肩をすくめたのだ。
誰とも穏便に付き合えるオスカーのあり方は、艦娘達の思いに未だ正面から答えられない提督からすれば眩しい物でもある。
猫からすれば時期が来れば勝手にそうなるような物であろうが、提督としては大いに悩むべき物事であった。
と、撫でる手が止まっていたからだろうか。
オスカーが提督の腕の中から提
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