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手に在る武装を確かめながらその港にたどり着くと、なにやら港らしからぬ音楽が彼女の耳に響いた。あまり使われていない、提督の秘密基地がある港よりは少々マシ、といった場所である。
そういった場所であるから、彼女は自身の耳をくすぐった音――音楽は、どこか違う場所から風が運んできた物ではないのか、と目を凝らし耳を澄ませた。
――あれ、でもこれって。
やはり音楽は彼女が現在身を置く港からである。これが軍歌であればまだ、なるほど、と頷けるのだが今彼女の耳に聞こえてくるのは、比較的最近の軽快なテンポの物である。
さて、これはなんであるか、と彼女は手にある、さきほど自身で修理して調整し、この港で軽く調子を見ようとしていた愛用の三式水中探信儀★6を構えて、港に響き渡る音楽の発信源に、じりじりと歩を進めた。
だが、突如として軽やかな音楽はその存在を消し、代わりに彼女の耳に飛び込んできたのは、
「んー、ストップー! んー……ここなんか違う?」
「そうねぇ、ちょっとステップはもう少し早めでもいいかもね」
「あの……那珂さん、さっきのステップでも問題は……」
「あるよー、あるんだよー。なんかさっきのはキレが悪いの。っていうかなーかーちゃーんだよー」
聞きなれた声である。
彼女と同じ四水戦、それも旗艦の那珂、それから最近めきめきと頭角を現し始めた那珂の秘蔵っ子、と称される野分、そして那珂と親しい瑞鳳の声である。
彼女は構えていた三式水中探信儀★6を下ろし、ほっと息を吐いてその声のする方向へと足早に向かっていった。
果たして、小道から出た先、開かれた一画に並ぶのは前述の三名であった。
彼女達は常の服装ではなく、それぞれ着慣れた様子のスポーツウェアを身にまとい顔を寄せて何事か言葉を交わしていた。そんな彼女達から少しはなれた所に置かれている、先ほどまで軽快な音楽を鳴らしていたのだろう小さなプレイヤーと、それに接続されたスピーカーも今は静かである。
と、那珂が急に振り返った。彼女の気配を察知したのだろう。那珂は彼女の顔を見ると、嬉しそうに微笑み手招きをした。
であるから。
彼女――第四水雷戦隊所属、由良は笑顔で返した。
さて。
季節は冬、そして年明けまであと一ヶ月という頃である。
となれば、年が明ける前にもう一つイベントがあるという事は態々言うまでも無い事だろう。人それぞれ、思う事は多々あるだろうそのイベントは、しかしこの鎮守府においては完全に歓迎ムードであった。
特に今年は、提督の初参加という吉事である。
艦娘達の喜びようは凄まじく、隼鷹と千歳は祝い用の酒を既に手配済みで、届けられたそれに手もつけず鳳翔に預け、間宮や料理上手の面子
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