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物だと思う」
「あ――」
由良は僅かに肩を揺らした。
一年に一度、たった一度のイベントだ。特に今回は、提督が初めて参加するという状況である。浮き足立った体はそのまま飛び、常とは違う何かが彼女達には見えたのだろう。見えた以上、常のままではいられなかったのだ、彼女達は。
――なるほど……そうかも、ね。
由良の中で導き出された答えであるから、それが紛れも無い正解とは言えないだろう。人はそれぞれ複雑にして単調で、単純であって難解だ。
見えた答えがそのままの答えであるとは誰も、当人でさえ分からない物だ。それは当然、人と同じ精神構造を持つ艦娘も同じだ。
それでも、由良はそれが一番近い答えなのだろうと頷く事が出来た。
由良は瑞鳳に向かって屈託の無い笑顔で頷き、自家製の玉子焼き味のスポーツドリンクを飲みながら、瑞鳳もまた笑って頷いた。
「もう! こんなんじゃ駄目だよ! 駄目駄目だよ!!」
珍しい、那珂の癇癪をおこした声が港に響いた。
一緒に踊っていた野分は驚いて目を見開き、瑞鳳はスポーツドリンクから口を離してかたまり、由良は愛用の三式水中探信儀★6を反射的に構えていた。
那珂と言うアイドルを自称する艦娘が癇癪を起こすという事は、彼女達にとってそれだけの椿事であったのだ。
だが、三人の視線を集める那珂はそれぞれの様子にも気付かぬようで、首を横に振った後力なく地面に座り込んだ。
顔を俯かせ、肩を落とした那珂の姿は、普段どんな時でもアイドルという事を優先させて笑顔で過ごす那珂とはかけ離れた物で、皆一様に驚き、また胸打たれた。だが、それゆえに彼女達の体は動かない。
尋常ならざる事態に、体がいう事を聞かないのだ。
それでも、由良は自身の為すべき事を為さねば、と辛うじて喉を鳴らし、かすれ声で那珂に問うた。
「な、何が駄目なの……?」
由良の問いが聞こえたのか。那珂は落としていた肩をぴくりと震わせると、座り込んだまま由良を見上げた。瞳は涙に濡れ、その相は常の那珂からは思いも出来ぬ、ただの娘と成り果てていた。
ごくり、と喉を鳴らす由良に、那珂は小さく首を横に振って答えた。
「勝てない……こんなんじゃ、こんなのじゃ……」
瑞鳳が、野分が、那珂の弱弱しい姿に相を悲しみに歪ませる。親しい友が、畏敬する上司が、普段の姿をかなぐり捨てて弱さを吐いている。それをすぐさま癒すことが出来ぬ自身に、悲しみを感じたのだ。
そして那珂が、叫んだ。
「これじゃ……こんなのじゃ――提督のドナドナに勝てないよー!!」
「おうちょっとまてや」
突っ込んだのは龍驤譲りの関西弁を放った瑞鳳である。北は北海道、南は沖縄、行き着くところまで行けば阿賀野語からエスペラント語ま
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