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れば、踊りもできるだろうと思うが、舞踊という物は身体能力だけではなく、音楽を全身で聴き、それを一体化させて体現するというセンスも求められる物だ。
流石に恵まれすぎではないか、と思い、由良は瑞鳳から目を離して重い溜息を吐いた。
才能の差を妬んだが故の溜息ではない。そんな物で瑞鳳を計り、そんな事で落ち込もうとした自身に嫌気が差し漏れ出た溜息だ。
瑞鳳が高い身体能力を持つのは、それだけの経験があるからだ。踊りにしても、最初からそうであったとは限らない。それでもやめず、めげず、曲がらず、ただ笑顔で続けた結果が現在の瑞鳳であるのなら、由良にそれを計る権利などない。
由良がすべき事は、それを認め賞賛し、それでも負けるものかと上を向く事だけであるからだ。
「野分も凄いけれど、瑞鳳も凄いのね」
「えへへ、ありがと」
由良の、短いながらも心の込められた賞賛の言葉に、瑞鳳は頬を朱に染めてはにかんだ。心からの言葉は、心にある色彩で素直に顔を染め上げるものだ。
やるべき事を一つ終えた由良は、再び那珂達に目を戻した。
由良の双眸に映るのは、やはり真剣な相で踊る野分と那珂であった。踊りの事など特にしらぬ由良から見ても、額に汗を流して身体でリズムを体現する彼女達の姿は十分に芸術的な物である事だけは理解できた。
ただ、やはり自身には遠い世界だ、とも由良は思うのである。
自身がそこに在って、踊る姿を想像できないのだ、彼女は。
と、そんな彼女の腰辺りが、再び軽く叩かれた。何事か、と由良はもう一度瑞鳳に目を向けた。
「今はいないけれど、名取も参加してるんだよ?」
瑞鳳の言葉に、由良は暫し目を瞬かせた後、ぽかんと口を開けた。その反応が面白かったのだろう。瑞鳳はくすりと笑ってまた由良の腰辺りをぽんぽんと叩いた。
「長良も一緒に踊ってるし、皐月に文月に長月、天津風や曙だって参加してるんだから」
「え、えぇー……」
由良としては、瑞鳳に返せる言葉はそれだけだ。
彼女の姉である長良はまだ理解出来る。体を動かす事が好きな少女であるから、たまには踊りもいいだろう、位で参加してもおかしくは無い。天津風も皐月も文月も、お祭りが嫌いな少女達ではないからこれも由良には納得できた。が、彼女の直ぐ上の姉、名取や、普段他者と距離を取りがちな曙や、幼いながらも武人然とした長月は、由良には理解不能であった。ダンス、といった物とイコールで結ばれる艦娘にはどうにも思えないのだ。
由良の混乱が手に取るように分かるのだろう。瑞鳳は笑みの色を深めて二度三度と頷いた後、軽快な音楽を背後にしながら穏やかに紡いだ。
「いつもとは違うから、いつもと違う事がしたい。あの人のための私たちだから、そんな私たちを見て欲しい、きっとそんな
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