暁 〜小説投稿サイト〜
執務室の新人提督
61
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
このままでは阿賀野文明も大分危ない状態である。
 消えたこところで誰も損しない駄目っぽい文明であるのだが……。

「えーっと…………あ、駄目だ読めない」

 駄目文明だ。
 阿賀野は手にしていた提督日誌を隅にやると、また新しい日誌を手にしてめくった。と、今度は目を輝かせた。どうやら読める物であったらしい。
 
「瑞鳳ちゃんがねー、提督さんに玉子焼き誉められてすごいうきうきしてた時の話ねー」
「……瑞なんとかではなく、瑞鳳なのね?」
「そうよ? やぁねぇ矢矧ー。瑞なんとかさんは瑞なんとかさんで別人じゃないのー。瑞鳳ちゃんは瑞鳳ちゃんよー?」
「……えぇ、そうね」

 阿賀野の中ではそうなっているらしい。
 偶に調理時に突如現れる阿賀野型五番艦瑞賀野も、阿賀野の中ではれっきとした妹の一人なのだろう。まぁ、矢矧自体、特に思う事もないのでそれはそれで構わないのだが、それを真剣に信じているとなると流石に姉の今後が心配にもなる。
 
「ん、こっちは秋雲ちゃんの新作の話ねぇ。提督さんをモデルにしたキャラクターを作ったら、動かない上にやたら意味不明な行動をとるようになった、とかで相談されたのよねぇ」
「まぁそうなるな」

 そうなるほか無い。あれをモデルにしようなどと、余りに無謀だ。
 矢矧の返事に、阿賀野は微笑んだ。慈愛に満ちた、酒匂を抱きしめた時と同じ相である。
 そんな表情のまま、阿賀野はまた別の日誌を取って嬉しそうに矢矧に話し出す。矢矧にとってはいつもの姉だ。
 どこか抜けて、どこか甘くて、ぼけっとした、それだけの姉だ。

 だから矢矧には、やっぱり分からなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「姉の事なのだけれど……」
「んー……?」

 後日、偶然食堂で相席になった阿武隈に、矢矧は話しかけた。
 注文した定食が来るまでの時間つぶしであり、ちょっとした謎の解明だ。
 
「なんで長良は姉を寮監したのかしら、って」

 矢矧は長良の寮監時代を知らないが、現在も軽巡四天王、等とも呼ばれる五人を球磨と共に纏めている長良であるから、不味いおさめ方はしていなかった筈で、後進の育成に集中したい、といっても体力自慢の長良であれば両立できたのではないか、とも思えるのだ。
 それだけに、やはり不可解なのである。であるから、相席になった長良の妹、阿武隈に問うたのだ。
 さて、矢矧に問われた阿武隈と言えば、暫しぽかんとした後、苦笑を零した。
 阿武隈の苦笑に怪訝そうな相を浮かべる矢矧に、阿武隈は応えた。

「候補はね、他にも居たのよ? 球磨とかー」
「でしょうね」

 当たり前である。阿武隈が口にした艦娘は、矢矧がなるほどと頷ける者である。
 あの苦労人の球磨であれば
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ