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執務室の新人提督
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こりこりーって」
「……あ、うん、大丈夫。なんとなく分かるわ」

 阿賀野語はやはり難解であったが、接する機会も多い矢矧には言わんとする事の大筋は理解できていた。が、次はさっぱりであった。
 
「で、それを見ていた雷ちゃんが突入して、提督さんをもみもみむにゅーってやり始めて、提督さんがあぁ駄目になるんじゃーって言いながらオスカーの肉球でぺちぺちされてたのよね?」
「いや、私に聞かれても……」

 最後のほうになると、何故か阿賀野は首をかしげながら不安そうな顔で矢矧に問うてきた。
 どうやら自身でも阿賀野文字は確りと解読できていないようである。果たしてそれは編纂可能なのか、と思う矢矧であったが、触れないことにした。
 手伝って欲しい、などといわれても困るからだ。彼女が習得しているのは日本語と英語だけで、他の言語はさほど詳しくない。
 
 が、悲しいかな。2年。たった2年。されど2年。
 寝食を共にした姉の、その他人が聞けば何ぞやと首を傾げて、理解しようとすればするほど頭痛がして自殺一歩前まで行くような、夢野久作の有名な迷作を読んだあとのぼさぼさ頭でどもりがきつい名探偵の生みの親の名作家の気分を追体験出来そうな意味不明な言葉も、矢矧はある程度理解できてしまうのだ。
 
 矢矧は暫し目を瞑り、腕を組んで阿賀野の言葉を脳内で咀嚼した。
 そしてゆっくりと目を開け、何か期待するような眼差しで自身を見つめる姉の双眸を確りと見て、口を開いた。
 
「……鳳翔さんが提督に耳かきをしている最中に、雷が現れて提督にマッサージを始めた。で、それをオスカーが真似て提督の頬を前足でむにむにし始めて、提督がその、なんか変な事を言い始めた……と?」
「それ!」

 目を輝かせて手を打つ阿賀野の姿に、矢矧は腕を組んだままふふんと胸を張った。
 決して胸を張れるようなことではないのだが、何故か様になっていたのはそれが矢矧という武勲艦であるからだろう。
 そしてそんな二人を突っ込む筈の次女の不在が痛かった。突っ込み不在であるのだから、矢矧のこの行動も仕方ないことであったのだ、多分。

 さて、実はその時、鳳翔によって耳かきされ、オスカーの肉球に頬を押され、雷にはマッサージされていた提督は、駄目になるんじゃー、等と言いながらも本気で駄目になりそうな状況に心底怯えても居たわけだが、それは誰も知らぬ事である。
 
「じゃあ、じゃあじゃあ、これ分かる?」

 少しばかり興奮した相で、阿賀野は次の日誌を手にしていた。これもまた矢矧から見れば解読不能な文字である。そして恐ろしいことに、書いた阿賀野にも半分程度しか理解できていないという悲しい文字でもあった。
 古代文明が現代文明から完全に消える条件とは、文字や記録が消える事であるという人もいるが、
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