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と姉を見つめた。
乙女の体と心を得てから共に過ごした時間は約2年程である。2013年の秋の特別海域で、姉達に遅れること三週間、といったところで矢矧はこの鎮守府に着任した。
面白いことに、この時点で既に艦であった頃よりも、艦娘である現在の方が長い時間を共にしている。
彼女達は高性能軽巡洋艦であったが為に、同じく高性能であった甲種駆逐艦――陽炎姉妹、夕雲姉妹と同じ道を辿った。
優れた能力は当然戦う為に与えられた物である。である以上、使われる場面は勿論それに応じた場所である。
戦局は既に終盤、それも敗戦色の濃い時代であった。結果は阿賀野型四隻中三隻沈没、だ。残った酒匂にしても、姉達と出会うことなく、燃料不足に泣かされて満足に海上を走る事も出来なかった。そんな彼女の、その最後の長い航行は異国への死出の旅であった。
今でこそ同じ寮の同じ部屋で四人が笑って過ごせるが、酒匂が初めて姉達の顔を見たときの、あの泣き出しそうな笑顔は矢矧には忘れられない物である。
2年。
たった2年。されど2年だ。
それが短い物であるか、長い物であるかは人それぞれだろう。矢矧にとっては濃く、それでいて様々な事があった2年であった。
矢矧はこの年月で、もはや見飽きたとも言える姉の顔を、じっと、じっと見つめた。
泣き出しそうな酒匂を真っ先に抱きしめて微笑んだ、慈愛の相はそこにない。明石を見るたび御礼をする律儀さも、今は見えてこない。那珂と出会うたびハイタッチをしてハグする明るさも、秋津州を見る度無理に笑う姿も、矢矧にはやはり見えない。
提督日誌を前にして、煎餅を齧りながらうんうんと唸るだらしない姉がいるだけだ。
と、阿賀野が提督日誌から顔を上げた。矢矧の探るような視線に気付いたのだろう。
が、何を探っているかまでは理解できなかった阿賀野は、あぁ、と頷いて口を開いた。
「これはねー、ふふ、提督さんが鳳翔さんに耳かきされていた時のお話なのよ」
「……いや、そんな事は聞いて――いや、待って。耳かき?」
手元にある日誌を手にして矢矧に渡そうとする阿賀野に、矢矧は首を横に振ろうとしたが、聞こえてきた内容が明確に頭へと浸透してくると阿賀野に聞き返した。
何せ阿賀野が矢矧に渡そうとしている日誌とやらに書かれている文字は、エジプトのヒエログリフかインカのキープにしか見えないのだ。
現代日本で普通に艦娘をやっている矢矧にはそれらの解読スキルなど無いのだから、古代阿賀野語に精通した阿賀野文明の生き残りである阿賀野氏に意訳して貰うほか無い。
「えーっとね、提督さんが猫とうにゃーってやってる時に、眠くなってきて、偶々通りかかった鳳翔さんが偶然で明石さんところで買ってきた耳かきで提督を近くのベンチで膝枕して
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