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艦娘、という名で呼ばれる乙女達は、日常においてまったく普通の娘と変わらない。
多少訓練や座学に時間を取られがちではあるが、待機中の体が空いた時間となれば、小物に化粧に服装にと、様々な物に目を輝かせる普通の乙女達になる。
そうやって普通、を繰り返していると、徐々にそれぞれ差別化が図られていく。或る者は小物を収集し、或る者は服飾に夢中になり、或る者は今時のドラマ等に胸ときめかせるのだ。
海の上では勇猛果敢な艦娘達も、陸の上ではただの乙女に過ぎない。
さて、そんな普通の乙女に過ぎない陸上の艦娘達の中で、一際趣味事に夢中になっている者と言えば誰であろうか、と各鎮守府の提督達、そして多くの艦娘達に聞けば皆一様にある者達の名を上げるだろう。
食道楽まっしぐらの赤城、各種スポーツにのめり込む長良、模型や造形にこりだす明石と夕張、だ。勿論、各鎮守府の彼女達はそれぞれまた違った個性も持つのだが、どうした訳かこれらの特徴だけはまるで基礎データとして組み込まれたかのように如実に出るのだ。
そしてそんな彼女達を差し置いて常に真っ先に皆の口に上る艦娘と言えば……
「なぁ青葉……ほんとに行くのか? ってかそこに何があんだよ?」
摩耶の前を歩く、重巡洋艦青葉型一番艦、青葉である。青葉は月明かりに照らされた、摩耶にとっては余り馴染みのない細い道の先をじっと見つめたまま、振り返りもせずに応じた。
「さて、何があるんでしょう?」
「おい」
夜間用に調整された、と自慢するカメラを手で確かめながらいつもの調子で返してきた青葉に、摩耶はこめかみに血管を浮かせた。彼女達を照らすのは頼りない月明かりだけで、その周囲には他に灯りもない。
青葉が見つめていた先を見れば、頼りない光ではあるが灯りも見て取れるのだが、足元を照らさないような光源など夜道では不要だ。目印にはなるだろうが、今摩耶が欲しいのは自身の先を照らす物であるのだから。
「まぁまぁ、怒らないで下さいよ。それを確かめに行こうじゃないか、って話なんですから」
「んだよ……んなモン大淀とかに聞けばいいだろ?」
振り返らずとも摩耶の口調から苛立ちを感じ取った青葉は、宥めるような声音で応じた。ただし、やはり青葉の視線は前に向くばかりで、摩耶には注がれていない。青葉の背を眺めながら、摩耶はこめかみを揉みつつ唇を尖らせた。
摩耶が言うように、この鎮守府の施設について思う事があるのなら大淀に問うのが一番だ。
が、青葉は摩耶の問いに強く首を横に振った。
「良い手段ではありませんね」
「……なんでだよ?」
摩耶の言葉に、青葉はようやっと振り返って人差し指を立てた。それを左右に振って青葉は続ける。
「良いですか摩耶さん、大淀さんが未だに我々に知らせな
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