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雪風の声に、ぴくりと耳を動かして名を呼ばれたオスカーは自身を抱く雪風を見上げた。そしてそのまま、ただ名を呼ばれただけだと分かると再び腕の中で丸まって目を閉じた。
実は仲が良いというよりも、雪風の体温目当てではないだろうか、等と思っても提督は決して口にしない。
純粋無垢な少女である雪風の思いを踏みにじるのは、提督としても一個人としても難しいことだからだ。
「っしゅん!」
と、提督の前で雪風が愛らしいくしゃみを零した。
子供は風の子、とはいえやはり限度はあるものであるらしい。照れ笑いを浮かべて鼻をこする雪風に、提督は肩をすくめた後自身の外套を脱いで雪風の肩にかけた。
雪風は少しの間まったく動きを止め、きっちり十秒後に再起動して狼狽し始めた。
「し、司令! ゆゆゆ雪風は大丈夫です! 問題ありません! い、今すぐコートをお返ししますから!」
「あぁ、大丈夫大丈夫」
オスカーを地面に下ろして両手を空けようとする雪風に、提督はその細い肩に手を置いて宥めた。成人男性用の外套を肩に掛けられた雪風の姿は、幼い風貌もあって少しばかり違和感を覚えさせるが、寒さを遮る為となればそれも致し方ないことである。
提督は少しばかり不恰好で、それでいて目じりに涙を浮かべて自身を見上げる雪風に目を合わせ、言葉を続けた。
「すぐそこの倉庫に、もう一着外套があるから。それと、ここは寒いからもう帰ったほうが良いかもね……オスカーも風邪を引くかもしれないし」
雪風は提督の言葉に暫し考え込んだ後、目尻に涙をためたまま大きく頷いた。おそらく敬礼したいのだろうが、両手で塞がった状態であるから、せめて確り頷こうと思ったのだろう。
「はい、雪風帰還します!」
雪風は大きな声でもう一度大きく一礼して、オスカーを腕に抱いたまま提督の外套に包まれて寂れた港から去っていった。
ここに雪風がいたのはまったくの偶然だ。好き勝手に動き回るオスカーに付き合っていたら、この場所に出ただけの事である。
対して、提督はと言えば倉庫に用事があっただけだ。
数日前、暖かいからと置きっ放しにしてしまった三着しかない外套の一つを回収に来たのである。
――まぁ、その結果また外套が一つ手元から消えた訳で。
消えた、というのはまた違うが、手元に無いのは事実である。そして雪風が提督の外套を身にまとったまま駆逐艦娘寮に戻り、それを見た艦娘達と一悶着起こす訳だが、それは提督の知らぬ事であった。
提督は海から吹く風に身を震わせ、足早に倉庫へと向かっていく。
ズボンのポケットから銀色の真新しい鍵を取り出すと、彼はそれをドアノブの差込口に無造作に入れて回した。
鍵が開いたと同時に提督は室内に入り、窓が無い為に昼でも暗いその場
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