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工作艦明石に鍵の製作を頼んだとして、それを明石が怪しいと思えばもうアウトだ。すぐ大淀に話が行くだろう。別に行ったところでそれだけの話であるが、情報を自力で収得したがる青葉としては致命的だ。
暴いてこそ一流のジャーナリスト。与えられるだけは二流、という事だろう。
その暴こうとしている事が、提督も出入りしている倉庫のこと、という辺りが青葉の愛らしさでもあるが。
青葉が黙り込んで鍵を動かしている間、摩耶は今回夜遅くに来る羽目になった倉庫を眺めていた。そう大きな物でもない、まったく普通の倉庫だ。
あえて特徴をあげるなら、まるで外部からの視線を拒むような、窓一つ無いその作りだろうか。それ以外は本当にただの倉庫だ。
さて、こんな事に必死になっている愛らしい、提督にとっての一番最初の重巡である青葉は、鍵を差し込んだ後しゃがみ込んでドアノブに耳を近づけ慎重に指を動かしていた。
ドラマや漫画で見たようなシーンを、まさかこんな所で見るなんて、と小さな感動を覚える摩耶であったが、次の青葉の声と音で目を剥いた。
「……開きましたっ!」
「マジか……」
満面の笑みを見せる青葉と、目を剥く摩耶。二人の耳に飛び込んできたのは、間違いなく鍵が開いた時の音であった。事実、青葉がドアノブをまわすと、それは何の抵抗も無く動き、ドアが僅かに開かれたのだ。
青葉は手にあるカメラを確りと握って、ゆっくりと倉庫の中に入っていく。摩耶もまた、神妙な顔で一旦周囲を確かめた後、つばを飲み込んで青葉に続いた。
二人の視界の先にあるのは、ただただ暗いだけの世界である。
窓一つ無いその室内は、港の明かりも月の灯りも遮ってしまっている。
摩耶はその余りの黒の深さにおし黙り、青葉は息苦しさを覚えながらも、壁にあるだろう電灯のスイッチを探そうとした。
探そうとしたが……その自身の手の平を湿らせる汗に不快感を覚え、キュロットスカートで軽く拭った。
そして今度こそ、と壁に手を這わして暫し弄った後、スイッチを見つけた。青葉は小さく息を吸った後、吐くと同時にそれを押した。
そして彼女達が目にした物は――
「一緒ですね、しれぇ!」
「そうだねぇ、一緒だね。雪風さん」
陽に照らされた寂しげな港の一角で、提督は雪風と向かい合って言葉を交わしていた。
昼とはいえ、流石に冬となると海から吹く風は冷たい。黒の海軍士官用の外套に身を包む提督に対して、雪風は常の装いのままだ。子供は大人に比べて体温が高い為、この程度の寒さは物ともしないのだろう、と提督は納得して雪風の腕の中で丸まっている猫の背を撫でた。
「しかし、お二人は仲が良いなぁー」
「はい! オスカーとは大の仲良しです!」
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