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趣味事に重きを置いて自由気ままで、それでいて武功と行動力は抜群で、尊敬したくてもさせないのである。本当に言葉に出来ない重巡洋艦娘なのだ、青葉という存在は。
常に動き回っている青葉が休んでいるのは、きっと重巡艦娘寮の青葉達の部屋のベッドで眠っている時だけに違いない、と摩耶は一人納得して胸中で頷いた。
――ほんと、行動力すげーよなぁ。
青葉の、その自身とはさして変わらぬ乙女の背を見て摩耶は半ば呆れ、半ば驚嘆の息を吐いた。そして青葉の行動力がもっとも発揮される事となるのが、
「……で、その倉庫……偶に提督が出入りしてるって話だっけ?」
「みたいですねー」
これである。
重巡青葉は、提督の事となると本当にじっとしていられない。
その最たる例が、最近あった提督着任宣言事件である。いや、あの出来事をこんな風に語っている艦娘は誰もない。が、摩耶の中ではそんな言葉で記憶されているわけである。
兎にも角にも、引きこもっていた提督を引っ張り出すため、青葉が珍しく音頭を取って動き回っていた時期があったのだ。
結局、無理に出すべきではないと主張する初霜と執務室前で激突した訳だが、その一手によって提督が執務室から――いや、彼だけの狭い世界から出てきたのは紛れも無い事実だ。
「うん、確かあの倉庫ですね」
突如零された声に、摩耶は小さく体を跳ねさせた。目を瞬かせながら、摩耶は港の明かりに照らされた、思っていたよりも明るい施設を見回した後小さくなっていく青葉の背を追った。
小走りで倉庫の扉へ向かっていく青葉を、摩耶もまた小走りで追いながら問うた。
「お、おい、鍵かかってんだろ? 近くによって見るだけじゃないのかよ?」
「いえいえ、こんな事もあろうかと、ですよ?」
青葉は一足先に扉の前にたどり着くと、少し屈んでポケットから鈍い色を放つ粗い作りの鍵を取り出した。それはどう見ても、そういった物に特に詳しくない摩耶の目から見ても、最近取り付けられたという真新しいドアノブとその鍵の差込口には釣り合わない物であった。
となれば、それはつまりそういう事だ。摩耶は額に手を当てて呻いた。
「青葉……お前さぁ……」
「お昼に下見に来たときに、ついでに鍵の形を取っておきましたので。まぁ……お手製なのでいけるかどうか、微妙なところですけれど……」
「お手製って……? 明石は?」
こういった際に頼れそうな工作艦の名を告げる摩耶に、青葉はドアノブの差込口に手製の粗い鍵を慎重に挿入しながら、とんでもない、といった相で首を横に振る。
「明石さんは大淀さんの親友ですよ? そこからばれたら、青葉困ります」
「……あぁ、そっか」
言われて見ればその通りだ、と摩耶は頷いた。
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