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執務室の新人提督
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い事ですよ? 聞きにいけば警戒されてしまいます。そうなっては、満足に調べられないじゃありませんか」

 真面目に、極めて真剣な相で言い切った青葉に、摩耶は暫し呆然とした後額に手を当てて大きなため息をついた。感心したからではない。呆れたからだ。
 
「たかが一個、最近になって倉庫が使われたって話だろう? なんでそこまでやるんだよ……」

 摩耶のその言葉に、青葉は目を細めた。細められた目は怜悧に輝き、そこに知性を感じさせる強い輝きが見えた。青葉はその光を双眸に宿したまま拳を強く握って口を開いた。
 
「そこにまだ見ぬ情報があるなら、この青葉。ジャーナリストとして放って置けませんっ!」

 くわっ、といった感じの顔で、それでも夜であるという事からか控えめに小声で叫んだ青葉に、摩耶はなんとも言えない頭痛を覚えた。同時に、こんな事に巻き込まれた自身の運のなさを痛感していた。
 青葉という艦娘は艦時代に乗せた人物の影響を色濃く受けたせいか、どうにも戦場以外では記者として動きたがるところがある。
 その為か、自身の周囲、或いは少しはなれたところ程度なら、すぐに動き回って情報を集めたがるのだ。あっちへふらふら、こっちへふらふら、と暇さえあればメモとペンとカメラを手にどこにでも現れる為、青葉を見ない日などは逆に不安になるという艦娘もいる程だ。
 
 じっとしていられない、とは青葉当人の言葉であるが、その言葉はまさに彼女の性分を良く表した物である。
 そしてそんな、じっとしていられない青葉がどこからか拾ってきた情報と言うのが、最近整備され使われるようになった寂れた港の倉庫の話であった。
 
「それまで鍵も無かった倉庫が、いつ頃からかしっかり整備されて鍵までつけられたんだっけ?」
「ですです。よくご存知ですねー」
「いや、青葉がここに来るまでに説明しただろ」
「……あれ、そうでしたっけ?」

 摩耶は拉致されてからここまでの道すがら軽い説明を受けたのだが、青葉にしてみれば覚えてもいない事であるらしい。港に行く事で思考が占領されて、それ以外の事は億劫なのであろう、と摩耶は自身に言い聞かせておいた。
 そうでないと、空いている方の手で頭を殴りたくなるからだ。恐らくそれは軽くかわされるだろうが、それでも殴りたくなるのが人の心情という物である。
 
「いやー、しかし助かりました。流石に青葉一人では夜道が怖かったので」
「……あぁ、まぁ……あたしも運がなかったしな」

 頭を軽くかきながら、ついでに肩まですくめる青葉に摩耶は肩を落として応じた。夜戦となれば艶やかに、そして鮮烈に咲き誇る彼女達であるが、それは飽く迄海上の作戦行動中の話だ。
 こんなにも幽かな月の光だけが道を照らす寂しげな夜を歩くだなどと、陸上にあっては可憐な乙女の一
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