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しようとしていた。
が、何故か足が動かなかった。望月はどうした訳か、動けなかったのだ。
まるで何か忘れ物でもあるかのような、そんな望月自身にも判然と出来ない漠然とした物が足に絡まってしまっている。
――さて、それはなんだ?
と望月は室内を見回した。いつものダンボール。提督の執務机と椅子、秘書艦用の机と椅子、本棚、小さな冷蔵庫、こちらもまた小さな食器棚、部屋の奥にあるバスとトイレ。制服のポケットに収まった携帯用ゲーム機の、先ほどまで遊んでいたゲームもひと段落着いている。となれば、あとは……首を傾げる提督だ。
なんともいえぬ愛らしい――勿論望月から見て、だが――提督の仕草と相に、望月は頷いた。それであったか、と頷いたのだ。
「司令官」
「はい?」
首を傾げたコリーにも似た提督に、望月はにやりと笑った。
「今度、あたしが一番とったら……また肩とか揉んでよー? んじゃ」
提督の答えも聞かず、望月は執務室を足早に出た。礼を失した、と思いはすれど望月の心が急かしたのだ。
先ほどまで足が動かなかったというのに、なんてわがままな足なんだ、と呆れながら望月は息を吐いた。彼女の足取りは軽やかで、壁の電灯に照らされた長い廊下を常より速く歩いていく。それを可笑しいとも、変だとも望月は思いもしなかった。
当然、今自身が浮かべる相が如何な物であるかも、彼女には分かってもいなかった。駆逐艦寮で姉の三日月と言葉を交わすまで、彼女は自身の相を覆う色がなんであるのか、知りもしなかったのだ。
「三日月ー、司令官OKだってー……」
「え? あ、あぁ……ありがとう。で、望月?」
「……ん?」
「ご機嫌だね? 何かあったの?」
三日月の言葉に、望月は自身の頬や口元を撫でた。頬は緩み、口元は笑みに歪んでいる。それを確かめてから、望月は頭をかいた。
「なんでもない。次は頑張らないといけないから、ちょっとめんどくさい事になったなぁー……って、そんだけ」
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