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潮の香りを肺一杯に吸い込み、長良は大きく息を吐いた。
長良は簡単なストレッチを行いながら、潮の香りが強く漂う周辺を見回す。
誰も使っていないはずなのに、何故か最近修理と改修、施錠がなされた空き倉庫に、未使用の艦娘達用の小さな待機部屋、それから、青い海と青い空だ。
――うんうん、偶には陸! って場所より、海が見える場所を走らないとね。
力強く頷き、長良は足首を軽くほぐした。彼女は今からこの鎮守府を軽く一周するにあたり、そのスタート地点を現在準備運動を行っている寂れた港にしたのである。
右腕を回し、左腕を回し。そして長良は腰を落として走り出そうとして――それをやめた。
港の角から、見慣れた影が出て来たからだ。
長い紫の髪をポニーテールに結った小柄な少女である。その小さな体を包むのは、白いセーラーだ。しかしセーラーという洋装を身にまといながらも、今長良の瞳に映る少女は見る者に貴い和の趣を感じさせた。
「ん? おぉ、長良かや」
少女も長良に気付いたのだろう。少女は長良へ、てくてくと近づいてく。長良は背を正し、自身へと歩み寄ってくる少女――初春の背を見つめつつ声を上げた。
「おはよう、初春」
「うむ、おはようじゃな、長良。そもじ、今日はかような場所でなんぞや?」
かような場所、と口にした初春に長良は目を点にした。それを言うなら初春はどうなのだ、と思ったからだ。そういったときに、疑うような、或いは攻撃的な視線を相手に送らないのは長良の美点であるが、人に問うという点では欠点でもある。
初春もやはり長良の疑問に気付けず、さて、その相はなんだろうか、と首をひねるばかりだ。
であるから、長良は口を開いた。
「いや、私はここから鎮守府を一周、くるっと走ろうかと思っているんだけれど……初春は?」
しかし、長良の双眸は初春の目に合わされて居ない。話すときには相手を真っ直ぐに見る長良にしては珍しい事であるが、初春はその視線の向かう先を目で追って理解した。
「うむ、わらわはこれの試運転じゃ」
そう言って、初春は自身の背にある――長良が見つめる艤装を軽く叩いた。
艤装という物がなんであるのか。
艤装とは艦娘にとってなんであるのか。
これらは未だ解明されてはいない。艦娘と共に建造され、艦娘と共に海上に現れる、彼女達の艦時代を色濃く表したそのパーツは、しかし単体ではなんの意味もなく、更には互換性もなかった。
陽炎の艤装は陽炎専用であり、それは同じ型である不知火であっても陽炎の艤装を扱うことは出来ない。ただし、別の陽炎が別の陽炎の艤装を装備できるが、艤装の中にあったデータは消えてしまうのだ。陽炎と共に艤装が培った経験――
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