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ここに来た当初相当に焦った訳だが、そんな姿を見ていない長良には知らぬ事だ。
「で、気を抜いてどうすればいいの? っていうか、日に三度のあれってなに?」
目を開け、素直に型から力を抜いた長良の問いに、初春は喜色に染まった笑みで頷き返した。長女としての性か、些細な事でも頼られるのが嬉しいのだろう。
「初春型と長良型でお弁当なぞ用意して、空いている港で昼でも一緒するが良いと思うのじゃ」
「……あぁ」
長良はやっと理解の色を瞳に宿し、数度頷いた。初春姉妹の上司である阿武隈を末っ子にもつ長良であるから、それをセッティングする事に難はない。長良は空を見上げた。そこにあるのは青い空だ。
こんな空の下で、海の風を感じながら美味しい物を食べて、皆で笑えたらどれだけ幸せなことだろう、と長良は心底から思った。と、そんな彼女の耳に初春の声が入ってきた。
笑いをこらえるような、どこか喜色を帯びた声だ。
「うむ、ついでじゃ。特T――吹雪姉妹達も招くかや? うむうむ、我ながら良い事を思いついたぞ」
一人納得して満足げに頷く初春に、長良は問うような眼差しを向けた。初春はそんな長良の視線に暫し考え込んだ後、片眉を上げて扇子を広げ、口元を覆い隠した。
「なんじゃ、そもじ知らぬのか? まあ任せよ。何事も形からじゃ、そう、形じゃ」
初春の発言の意味を汲み取れない、というよりも、自身だけで納得している初春を視界におさめつつ、長良は肩を落とした。が、それでも彼女は不安には思わない。
自身ありげに扇子で口元を隠す初春の瞳に、強い輝きを見たからだ。
「新しき年の初めの初春の、今日降る雪のいやしけ吉事、とな」
耳をくすぐったその言葉がなんであるのか、長良にはまったく分からない。
それでも長良は、なるほどと頷いておいた。
なんとなく、それで良いのだと思いながら。
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