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」
問う初春の眼差しは、珍しい事であるが歳相応の甘えが見えた。長良の目には、だが。
長良にとって、自身の訓練を置いて初春の艤装の試運転に付き合ったのは、過去の後ろめたさからだ。しかし初春はそれに、言葉ではともかく、態度では少女としてただ甘えてきたのである。
自身もまた、5人の妹を持つ長良としては、到底放っておける物ではなかった。
「私でよければ手伝うけれど……」
「うむ、良い心がけじゃぞ」
「かわりに、あとで私のランニングに付き合ってね?」
「……うむ、おそらく、多分……そうじゃな、子日か若葉か初霜が付き合うと思うぞ?」
「おい長女」
目をそらしてしどろもどろに呟く初春に、長良は据わった目で突っ込んだ。流石にこれには長良も攻撃的だ。
お互い長女である。妹を売るとは何事かと非難を込めた訳だ。だがしかし、長良のその様に初春は手に在った扇子を彼女に突きつけて声高に叫んだ。
「ではそもじ、神通に訓練へと拉ch――誘k――道連r――誘われた阿武隈が居たとして、我が身を呈して守れるかや!」
「頑張ってね阿武隈」
長良は満面の笑みで返した。脳裏に浮かぶのは、在りし日の子牛と買い取り業者――阿武隈と神通の姿である。初春は仮定として口にしたが、それがまさか過日に在りし悲劇だとは思いもしなかっただろう。
神通という乙女は、普段はまさに華にも似た乙女であるが、作戦行動となれば矛となって敵を貫く戦乙女になってしまうのだ。訓練、となれば同僚達との物であるから、流石に作戦行動中の苛烈さには及ばないが、それでも十分恐ろしい物である。
ほぼ同等の身体能力を持つ長良ですらそう感じるのであるから、神通という乙女の気迫は半端なものではない。
もっともそれは、言ってしまえばたった一人の為に磨かれた覚悟であって、神通という乙女の純な想いでもある。だからこそ、誰も彼女を止められないという問題も孕んでいる訳だが……
「あぁ……でも、初霜かぁ……」
「……うん? なんじゃ? 初霜がどうかしたかえ?」
初春が売った妹の中の一人、現状では初春型の末っ子である初霜の名を零す長良の相は明るい物ではない。故に初春は問いただしたのだ。
「いやぁ……初霜にも迷惑掛けてるし、やっぱりお姉さんをドッグ送りにしてるから……」
初霜だけに限った話ではなく、もうその場には居なかった子日を別にして、若葉にも長良は後ろめたい物がある。初春はそれを許すというが、彼女の妹達が何を思うかはまた別だ。
特に初霜には、長良が途中で投げ出した仕事を任せてしまったのだから尚更だ。既に謝罪しているからといって、それが消える訳でもない。
少女の体というのは実に便利である反面、そこに宿った少女の心というのは実に不可思議だ、と長良は自
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