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執務室の新人提督
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言葉に、長良は腕を組んで唸った。艦時代の事である。スラウェシ島のケンダリー攻略という一場面で彼女達は運悪く衝突し、長良と初春は一時離脱、仲良くダバオで修理となったのだ。
 ぶつかって来たのは初春であり、被害者は長良である。ただし、それは二人が艦の頃の話であって少女の体を持つ現状にあっては、こんなにも小柄な少女を入院させる様な事態を起こしたのか、と長良にとっては後悔しきりだ。

 おまけに、その時初春の妹である初霜には旗艦任務まで任せてしまったのだから、長良からすれば後悔ばかりの出来事である。
 それらのことは、既に互いに謝罪済みであるが、謝って終わり、というようなものでもない。少なくとも長良にとってはそうだ。
 落ち込んだ相を見せる長良に、初春は持っていた扇子を開いて口元を隠し、からからと笑った。

「そもじ、何という顔をするか。悪いのはわらわじゃ。そもじが何あって落ち込んでよいものか」

 笑う初春であるが、言葉に含んだ”よいものか”とは古語の非難の意を込めて問い返す言葉だ。謝っておきながら強気な姿勢は果たしてどうなのだろうか、と呆れ顔を見せた長良に、初春は扇子をぴしゃりと閉じてそれで自身の肩を叩いた。
 
「それでよい。そもじに暗い顔など到底似合わぬぞ。誰が何を言おうと、何するものぞ。何するものぞ。言うてやれば良い。わらわ――初春が悪いのじゃと、呵呵と笑ってやればよい」

 ふふん、とどこか挑むような笑みを浮かべる初春に、とうとう長良は小さく笑った。笑うしかないのだ。
 初春は自身が放った言葉に嘘など含まれて居ないだろうし、その言葉で自身が不利益を蒙っても撤回する事はないだろう。
 長良型姉妹の長女である長良が真っ直ぐである事同様、初春型姉妹の長女もまた真っ直ぐなのだ。
 
「それにじゃ。そんな事を気にしておったらそもじ、深雪と電、初風と妙高なぞどうするものじゃな」
「んー……」

 初春が口にした深雪と電、初風と妙高も、彼女達と同じ衝突組だ。ただし、この二組は衝突の結果が二人以上に悲惨である。
 あるのだが、この二組は特にわだかまりなどないのだ。初風は妙高を恐れてもいるが尊敬もしているし、何かあれば妙高に相談する程である。深雪にしても、妹――或いは従妹とも言える電に特に含んだような素振りは見せていない。休日などには一緒に遊んでいる事もあるので、こちらも良好だ。
 となれば、結果的には両者共無事に復帰で済んだ自身達がどうこう気にするような物ではない、と初春は言いたいのだろう。

「それでもまだ気にすると言うのならば、もう少しばかりわらわの試運転に付き合えばよい」
「……いいの?」
「良いもなにも、もうわらわはそもじの世話になっておるぞ? それともなんじゃ、ここでわらわを放ってどこかに行ってしまうのかや?
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