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執務室の新人提督
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錬度は、その陽炎当人にしか適用されないのである。同型同艦でさえ、艤装は別人と認識しているのだ。

 そのくせ、建造で簡単に作れたり、海上で拾えたり、修理も簡単で在ったりと、本当に謎多き物体である。
 そしてその謎の中でも最大の物と言えば。
 
「ふむ、通常航行には問題なしじゃな」
「じゃあ、次は戦闘航行速度?」
「いや、も少しならしてからじゃな。何事もせいでは仕損ずるものじゃ」

 海上で波を切って進む初春の姿である。
 艦娘達はただの少女だ。少なくとも、彼女達はその外見に準じた身体能力しか有していない。であるのに、一度艤装をまとえば彼女達は海を侵し人類を脅かす深海棲艦相手に一歩も引かぬ兵士となる。
 如何な兵器でもあっても、まともな戦闘行為さえ許さなかった深海棲艦相手に、だ。
 
 海上を曲がり、戻り、進み、様々な動きを初春は試してく。
 艤装の調子を見るためだ。その姿は知らぬ者からすれば、無骨なフィギュアスケートにも思えて滑稽と笑ったかもしれないが、自身もまた艤装をまとう長良にしてみれば、初春のそれは実に様になる姿であった。
 戦闘の為に、或いは迅速な行動の為に、まず何を見るべきか理解した上で初春が艤装の調子を試しているからだ。
 
 彼女達の艤装は彼女達だけの物だ。
 故に、明石や妖精達が修理、調整したそれを本番――作戦行動で直ぐ使える物であるかどうかを試すには、地道な試運転しかない。
 流石に砲撃や雷撃を試すにはここでは不足だが、現在の初春の様に走らせる程度なら寂れた港でも十分であった。
 
「……少し飛ばしてみるかや」

 初春は小さく呟き、それまでの通常航行速度から戦闘航行速度に切り替えた。
 相手の火線をくぐり、弾雨の下を走り、的確に相手へと近づき仕留めるには瞬間的な速度が必要になってくる。走り、止まり、走り、止まり、とそれらを淀みなく、直線で進み、稲妻の様に奔り緊急回避行動を取って初春は息を吐いた。
 彼女が感じる限りでは、修理前の調子となんら変わった様子が無いことに安堵のため息を零したのだ。
 そして彼女は、そんな自身を港から見つめる長良に目を向けた。長良の手にはメモとペンがある。
 何か不調が見られた場合記す為のものだ。当人では気付けない問題箇所も、傍目の誰かには見えるものであるから、偶然居合わせた長良にこれ幸いと初春が頼んだのである。
 
「しかしなんじゃな」
「ん?」

 初春は海上で緩やかに曲がって長良に近づきつつ零した。こちらは現在艤装がない長良であるが、彼女の素の身体能力は高く、それは五感にも現れていた。初春の零した声も確りと耳に届いているのである。

「かつてぶつけてしまった相手に、こうして試運転に付き合って貰えるとは、わらわは果報者よな」

 初春のその
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