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執務室の新人提督
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「うん」







 こういった仕事を任される事が多い千歳と、事務方に手馴れている瑞鳳の手によって、彼女達が任された分の倉庫は直ぐに終わった。飽く迄一部保有物資だ。
 流石に全ての、となればもっと人手が必要だが、そう大きくも無い倉庫では彼女達二人の手に掛かれば容易い物であったのだろう。
 
「んー……」

 背伸びをする千歳は、太陽の高さを確かめてから隣にいる瑞鳳に目を向けた。多分今日も無理だろう、と思いながらも千歳は口を開いた。
 
「用事が無ければ、お礼にお昼を奢りたいんだけれど……」
「ありがとう、気持ちだけ貰っておくね」

 瑞鳳は空いている手でポケットから取り出したスマホを真剣な表情で見つめ、何かを確認した後、ポケットにスマホを仕舞い顔を上げて申し訳なさげな顔で首を横に振った。が、その返答は千歳には分かりきっていた物であった。彼女は苦笑で小さく頷いた。
 
「まぁ、ほどほどにね?」
「うん、任せて!」

 千歳の言葉に、瑞鳳は力強く頷いて走り去っていく。時折、振り返って瑞鳳は千歳に手を振った。それに同じように手を振って返す千歳の相は、困り顔寄りの苦笑である。先ほどより苦さが強くなっているのは、今手を振っている、小さな瑞鳳が何をやらかすかよく理解しているからである。時間は昼前、向かう先は司令棟の給湯室。
 そして振られていない手に在るのは、玉子焼きセットである。
 何故その手に在るのか、先ほどまで無かったではないか、と千歳はいちいち突っ込みはしない。突っ込むのを放棄したからだ。
 
 この世界は不思議な事など沢山ある。巨大な地上絵、未確認の生物、証明難解な事象、不可解な現象、そしてそれらの中に瑞鳳の玉子焼きがあるだけの事なのだ。
 千歳としては、ネス湖のネッシーもクレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題も瑞鳳の玉子焼きも、そういった物としておく事で精神の均衡を保ちたいのである。
 いちいち考え込んで寝込むような事は、人生で一度だけで十分なのだから。

 とはいえ、まったく何もかもの思考を放棄している訳ではない。不思議は不思議なりに、思う事はある物だ。
 瑞鳳という軽空母は、食事時には妖怪玉子焼き作りになる。勝手に調理場に入って一品作り上げて去っていく姿は、まさに現代に蘇った妖怪だ。ぬらりひょんやその辺りの妖怪の亜種かと思えるほどである。
 
 もっとも、その成功率は高い物ではなく大抵追い出されて終わる事が多い。
 多いのだが、しかしおかしな事というべきか、懐の深さというべきか、そんな瑞鳳を追い出さない艦娘達も確かに存在するのである。
 それは少数だけの姉妹達であったり、瑞鳳の行為を黙認している艦娘達である。何故か仲がいい那珂のいる川内姉妹、なんでもござれの伊勢姉妹、結局面倒見の
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