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「ふむ……こっちはこれで終わりかな。で、っと。次はー……っと」
今しがたチェックの終えた棚に、済、と書かれたマグネットシートを貼って瑞鳳は手に在る書類に目を落とした。その棚の番号、棚に在る筈の分、そして実際にある分が今瑞鳳の手によって書き込まれた。
彼女は書き損じが無い事を確認してから、隣の棚を見た。
並べられた物資は多く、先ほど瑞鳳が使ったマグネットシートが貼られていない棚はまだまだある。
その数の多さに、瑞鳳は肩をすくめて息を吐いた。少しばかり見通しの悪い単純作業という物はその不透明さと退屈さから精神を磨耗させる。そして磨耗した精神はミスを誘発するのだから、本当に質が悪い。
殊それが、地味であっても必要な事であるから、瑞鳳にとって本当に辛い物であった。
「さぁーって……んじゃあ、あともう少しだって信じてがんばろっか」
それでも、磨耗する精神を支える物が彼女の中にはあったのだ。
瑞鳳は握っているボールペンをポケットに仕舞いこみ、未だ触っていない箱に近寄ってそれらをあけて中身を確かめていく。
「んー……あれ、これ機銃の弾だ」
箱の一つに書かれた、大本営指定の地味な文字と弾丸マーク、それから対応したサイズが刻まれたそれに、彼女は棚の番号を確かめてから、もう一度書類に目を落とした。
書類に書かれている情報では、今瑞鳳が確認を行っている棚には艤装用の修理パーツがある筈なのだが、今彼女の前に在るのは地味な弾薬箱だ。
さて、もしかしてこの棚すべてがそうなのか、と確かめる瑞鳳に、背後から声がかけられた。
「瑞鳳ー。こっちの棚に艤装の修理パーツがあるんだけれどー」
「……あー」
なんとなく、事情を察して瑞鳳は声を上げた。
なるほど、こういう事があるからアナログであっても人の手は必要なのだ、と思いながら。
――まぁ正しくは、私は人じゃないんだけれど。
確かめた上で、たった一つだけ間違ってこの棚に並んでいた弾薬箱を手に取り、瑞鳳は違う棚で同じように確認作業を行っている千歳に声を返した。
「ちーとーせー。こっちに弾薬箱あるけど、どーおー?」
「それ、それ! それこっちの棚ー」
当たりであった。
瑞鳳は頬を緩めて空いている手でスマホを取り出して時間を確認する。まだ昼までには余裕がある時間だ。
瑞鳳は素早くスマホをポケットに直し、歩き出した。千歳に弾薬箱を渡し、自身も艤装用の修理部品を受け取るためである。
軽空母瑞鳳、という艦娘は実に独特な存在である。
彼女という存在は、この個性的な艦娘が多数存在する鎮守府の中にあっても、まったく埋もれず、まったく劣らず、燦然と輝き自己を主張する軽空母だ。
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