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彼女自身は、自身をまったく普通の軽巡洋艦娘だと思っている。
夏から秋、秋から冬へと装いと彩を変えだした窓から見える眼下の花壇を見ながら、彼女は様々な花の中にあって、未だ朽ちず自己を主張する金木犀の強い匂いに唇を歪めた。
強い物は、例え埋没しようと自己をこうやって主張する物だ、と笑ったのである。
彼女自身は、自身をまったく普通の軽巡洋艦娘だと思っている。
少なくとも、彼女には姉の様な武功はないし、妹達の様な活躍の場も無い。出撃は稀であり、遠征で偶に旗艦を任される位だ。彼女と言う存在は、金木犀の匂いに消される他の花の様なものでしかない。
それでも、彼女はまったく動じても焦ってもいなかった。
「あぁー……いい天気だにゃあ……」
冬を前にした貴重な暖かい日の光を受けながら、軽巡洋艦球磨型2番艦多摩は、だらしなく頬を緩め目を細めていた。
軽巡洋艦娘の層は厚い。出撃に適した川内型、球磨型、長良型、阿賀野型、遠征に適した天龍型、兵器の実験を担当する事も多い夕張、鎮守府における事実上の兵站、参謀、政務担当の大淀と、実に色とりどりだ。
求められる役割に対してはっきりと色分けされた彼女達は、それぞれの分野で活躍の場を与えられる。しかし、その数の多さゆえにどうしても控えめになってしまう艦娘達がいるのも、また事実であった。
その一人が、現在軽巡洋艦娘寮の球磨姉妹部屋の窓から日の光を浴びている多摩である。
彼女の姉は軽巡四天王なる物に名を連ねる鎮守府を代表する猛者であり、妹の三人は特別海域で一騎当千の活躍を見せる、提督の切り札である。
そしてそんな姉と妹達を持つ多摩は、いたって普通の軽巡であった。
少なくとも、彼女には特別な何かはない。球磨の様な、軽巡を越えた戦闘能力も、北上大井木曾の様な特徴的火力もありはしない。
姉や妹といった近しい者が優秀である場合、大抵劣等感に苛まれて曲がり、ねじれ、折れる者が多いが、ここで眠たげに目を細める多摩はそれらの感情には一切冒されていなかった。
まったくの自然体である。
「あー……今夜は何食べようかにゃ……秋刀魚……いや、そろそろ他の魚にいくかにゃ……」
「また多摩にゃんは魚ばっかり食べてー」
背後から掛けられた声に、多摩は眠たげな目のまま振り返って声の主を確かめた。多摩に声をかけたのは、ベッドの上で本を読む多摩の妹――北上である。
「多摩にゃんじゃねぇにゃ」
「えー、かわいいよ、多摩にゃん」
「なんかご当地マスコットみたいでいやだにゃ」
「わがままだにゃー」
姉の言葉に、北上は真似つきで返した。北上の相も、姉に良く似て眠たげであったが、これは真似ではなく彼女の常の物である。
「あれ
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