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多摩は、そのまま北上の背に回ってもたれ掛かる。おんぶの出来損ない様な姿であるが、多摩はそのまま扉を指差して声を上げた。
「よし、我が妹北上にゃんよ。このまま多摩を食堂まで運ぶがよいぞー」
「えー、すっごいめんどくさい」
姉の奇行もなんのその、北上はいたって普通のテンションで返した。彼女自身の先ほどまでの奇行からも分かるように、その程度は普通に応じられる物なのだろう。
が、外に出ようかと言うのなら流石に現状の姿では駄目である。駄目すぎて何が駄目か注意できないくらい駄目である。
「多摩にゃーん」
「多摩にゃーんじゃねぇにゃーん」
首筋に掛かる多摩の息に、北上はくすぐったさを覚えつつもお下げで多摩の肩辺りをぺしぺし叩きつつ言葉を続ける。本当に、第三者が見れば目を疑うような異様な空間であった。ただし球磨達は普通に流せる程度の物であるが。
「こんな姿で他の子達に会ったら、どうするのさー?」
「アルキメンデス食べたらこうなったって言うにゃー」
アルキメンデスにそんな効力は無い。あれはただ高くて不味かっただけのインスタントあんかけかた焼きそばであって、そんな呪術的な効力は一切無い。
「んじゃー、提督にあったらどうするのさー?」
「ん……提督かぁー」
肩をぺちぺちを叩く北上のお下げを軽く握った拳の猫パンチでいなしつつ、多摩は暫し考え込んだ後、ゆっくりと北上の背から離れてドアへと歩いていった。背中から離れた姉を黙って見る北上に、多摩はドアノブを掴んだ姿勢で顔だけ振り返って声をかけた。
「さぁスーパー北上にゃん、途中で提督を拉致って食堂で一緒にあんかけかた焼きソバ食べるにゃ。提督だったらきっとご飯奢ってくれるにゃ」
「いやぁ……多摩にゃんすごいなぁーってあたし思うのよねー」
キリっ、とした相で北上を促す多摩の姿に、北上は感心しきりといった様である。自分の欲望に素直というか、裏表が無いというか、無垢というか、兎に角姉のこういったところは北上にとって本心から驚嘆するところである。
隠れたがりで、素直になれない大井を近くで見ているから尚更だ。
「よし、速く作戦を開始するにゃ。あと、多摩にゃんじゃねぇにゃ」
ドアを開けて廊下に出る多摩は、この鎮守府にあって普通の軽巡洋艦娘である。
彼女自身は、自身をまったく普通の軽巡洋艦娘だと思っている。それに間違いはない。ないのだがしかし、その私生活と個性までが普通であるかは……それぞれの判断に委ねるとしよう。
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