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井を仰ぎ見る二人の脳裏をよぎるのは、夏の主役の一つであるスイカだ。食べ終えたあとの皮などは、それこそ捨てるかカブトムシの餌にしかならないと思っていた二人だが、球磨はそれを割烹着姿で綺麗に洗って漬物にしたのである。
お茶漬けによし、添え物によし、と二人にとっては季節を感じさせる美味なる物であったのだ。
「んで北上にゃん、多摩になんか聞きたい事があるのかにゃ?」
「うんスーパー北上にゃんだよー」
「……畜生、こいつぶれねぇにゃー」
反撃として繰り出した姉の攻撃にも、北上は平然としたままである。しかも態々片膝立ちの重雷装巡洋艦のポーズまでして、だ。とことんマイペースである。
「んでんで多摩にゃん」
「おうおうなんでいスーパー北上にゃん」
何故かべらんめい調で返す姉に、北上は特に反応も示さず、再びベッドに仰向けで倒れこみ、足をぶらぶらとさせ始めた。
「北上さんは暇だよー」
「多摩も暇だにゃー」
二人はそう言った後、互いに暫し視線を合わせて同時に欠伸を零した。
その様は、まさに姉妹と言わんばかりにそっくりで、彼女達の中に流れる緩やかな時間を確かに感じさせる物であった。
実際、球磨姉妹でよく似ているのは球磨と木曾、多摩と北上である。前者は海上での言動がそっくりで、後者は日常での言動がそっくりだ。
ちなみに、大井はと言えば誰にも特に似ていない。彼女は実に独特な存在であるからだ。ただし、だからといって大井が姉妹の中で孤立している訳ではない。
大井にしても、姉や妹達には一切猫を被る事が無いのだから、その姉妹間の信頼や愛情がどれほどの物か分かろうという物だ。
まぁ、北上に対しての信頼や愛情が重すぎるのも、大井の独特さを際立たせている訳だが、それも個性と言えば個性だ。
「んー……おー……うぼぁあああああああああー」
上半身を起こし、首をかしげ、腰をひねり、最後に両手を振り上げて北上は奇声を上げた。多摩はそれを黙って見ているだけだ。見慣れた物なのだろう。
奇声をあげ終えた北上は、平然と佇む姉に顔を向けて口を開いた。
「おなかすいたねー」
「おなかすいたにゃー」
多摩は絨毯に、北上は再びベッドに突っ伏して、へにょーんとした顔で同時に零した。突っ伏したそのままで、二人は顔だけ動かして互いの顔を見る。互いに、へにょーんとしたままだ。
「なんか食べに行くかにゃ?」
「でもあたし、多摩にゃんと違って猫草とか食べられないしさー」
「多摩だってんなもん食べねぇにゃ」
ぐでーん、と二人は絨毯とベッドの上で、それぞれごろごろと転がりながら会話を続ける。ここに第三者が居ればいったい何事かと我が目を疑うような様だが、幸いとも言うべきかここには多摩と北上しかいない。
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