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「おいーっす」
そう言って、女は扉を開けた。扉の向こうにあるのは、様々な商品が並べられた棚と、所狭しと置かれたアルコール類、それとつまみである。
カウンター内で青葉の新聞を読んでいた明石は、自身のもう一つの城に入ってきた女――隼鷹に笑みを向けた。
「いらっしゃいませ、隼鷹さん。頼まれていたお酒、来ましたよ」
「おぉー、やっぱりかー。なんとなくそんな気がしてここに来たんだよー」
明石の言葉に、隼鷹は相一杯に笑みを湛え足取りも軽くカウンターへと歩いていく。明石はそんな隼鷹に苦笑を零しつつ、奥に仕舞っておいたそれを取り出してカウンターの上に置いた。
和紙に丁寧に包まれたそれを、隼鷹は目を輝かせて眺めていた。そんな隼鷹を見る明石の目は、どこか嬉しげである。
今隼鷹が熱心に見つめる物は、そうそうお目にかかれない希少価値の高い日本酒だ。なかなか市場に出ないという代物を、明石がたまたまネットで見つけて確認した後取り寄せたのである。
「いやー……ありがとな、明石」
「いえいえ、こちらも商売ですから」
隼鷹の心からの感謝に、明石はそう返したが笑みの質がまったく違っていた。少なくとも、そこに浮かぶ物は仕事としての責務を果たした、といった類の笑みではなく、仲間の役に立てたと喜ぶ少女の笑みだ。
明石という艦娘は工作艦――移動する海軍工廠である。彼女は誰かを直し、誰かの為に何かを作る事が求められた存在だ。艦隊支援の為にと生まれ、パラオ大空襲で大破着底するその時までに為した彼女の功績は、移動する海軍工廠の名に恥じぬ物であった。
誰かの為の自身、というスタンスは艦娘として女性の体を得た現在も変わらず、明石はこうして誰かの為に何かを行っている。
さて、それにどうやって報うべきか、と悩む隼鷹の目にふと見慣れぬ物が映った。
「明石……あれは、何さ?」
「はい?」
明石は首をひねるが、隼鷹が指差す先を辿って、あぁ、と頷いた。
最近入荷した物で、売り上げもそう大きな物ではない。ではないのだが、今後、恐らくこの酒保で大きなウェイトを占める事になるだろう商品を見つつ、明石は頷いた。
今彼女の店に居る艦娘、隼鷹はこう見えてお嬢様なところがあるので、恐らくこういった類の物を知らないのだろうと理解したからだ。
であれば、と明石はその商品を一つ手にとって口を開いた。
「プラモデル、模型ですよ」
「……へぇ、これが模型、ねぇ?」
明石の手にある模型の箱を珍しげに見て、隼鷹は、ほへー、と間抜けな声を上げた。
彼女の瞳に映るのは、在りし日の艦姿の同僚達の絵だ。箱に描かれたそれを暫し眺めた後、隼鷹は明石に目を戻した。
「……で、これはどういう物?」
「これはですね」
そう言
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