55
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
れだ。
明石とも、提督とも、隼鷹は会話をすれば自然と笑みが零れる。勿論会話の内容如何によっては笑みの質も変われば、そもそも笑みも出ない事もあるのだが、大抵の会話によってもたらされるのは心が温かくなるようなひと時である。
彼女にとって、それは何物にも代え難い宝物の一つであった。
だから彼女は、手に在る日本酒を抱きかかえて提督達に背を見せた。
「あ、隼鷹さん」
声をかけてくる明石に、隼鷹は僅かに振り返った。言うべき言葉はない。しかし、伝えるべき思いはある。
――ごゆっくり、ってな。
にんまりと笑った隼鷹の、その意思が透けて見えたのだろうか。明石は口を閉ざして顔を真っ赤にした。隼鷹はそれを見届けてから空いている手をひらひらと振って酒保から出て行く。
今度鳳翔の居酒屋で感謝がてらに奢って、提督が来たときの明石のあの嬉しそうな顔を少しばかりからかってやろうか、等と考えながら。
「行っちゃったねぇ」
「あ、は、はい、行っちゃいましたね」
提督の言葉に、明石は少々詰まりながらもどうにか返した。隼鷹の気遣い、と言うよりは少々からかいの意味合いが濃いであろう気の回し方に、明石は少々乱されたのである。
彼女はやたらと熱い頬を自身の両手で挟み、軽く叩いてから顔を上げた。
顔を上げた明石の目に映るのは、きょとん、とした提督の顔だ。
――あら可愛い。
などと思いつつも、それでも明石の体は提督を前にして確りと酒保の主らしく動いていた。
手に在るのは、先ほど隼鷹に見せていた模型の箱である。
「こちら、新型の模型ですよ」
「ほほぅ……これはこれは」
差し出されたそれを、提督は両手で受け取って興味深げに箱の絵を眺める。箱に描かれたのは駆逐艦だ。それから提督は、側面部分に書かれた文章に目を通し始めた。
そこに書かれているのは大まかな艦歴である。これは大体の模型の箱に書かれている物で、ロボット物であればそのロボットの紹介、城であればどの時代の誰が作ったか、等が書かれている物である。
普通の少年時代を過ごし、それなりに模型を作った提督からすれば見慣れた物であるが、しかしそこは平行世界である。少々違う部分があるのだ。
「へー……初雪さんって公にはそう説明されてるのか……」
艦娘である現在の情報も、ある程度書かれているのだ。
軍の機密である艦娘であるが、全てを隠す事は不可能である。隠そうとすればするほど、人はそれを暴きたがる物だ。その為、大本営が敢えて情報を流したのである。大本営発表、つまり公的な物として、だ。
無論、例えばこの駆逐艦初雪の模型の側面に書かれた艦娘としての初雪の情報は、各初雪から出された平均的な初雪の情報である。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ